シリーズ開始当初から3人の登場人物の中でもっとも大きな変化を遂げたのが、42歳になった内海薫だ。内海は刑事として格段に逞しくなっている。『容疑者Xの献身』では会議で指名されてまごついていたが、本作では淡々と会議を進行させていた。それでいて、湯川とのやりとりは当時と変わらないおかしみがある。
自分の経験によって役柄が変化していくのが楽しい
変化したのは内海だけではない。内海を演じている柴咲も大きく変化を遂げてきた。内海と自身の変化について柴咲はこう語っている。
「その年代に求められるもの、表現できる範囲というのがあって、いくら背伸びをしても、テレビシリーズが始まった時の20代のころの私には、“新人刑事・内海薫”しか出せることがなかったと思います。いまだからこそ、キャリアを積んで、きっと痛い経験もして、それで戻ってきて、懸命にいい仕事をしたいなと思っている内海薫がいて、その姿はいまの私にしか出せないもの。自分の経験によって役柄が変化して行くことをすごく楽しめているなと感じています」(MOVIE WALKER PRESS 22年9月17日)
自分自身の芯を持ちながら警察の中で懸命に生きてきた内海の姿は、有名作品に出演していたものの自分自身との乖離に戸惑っていた20代と、迷いをくぐり抜けて充実した30代を過ごしてきた柴咲の姿とどこか重なる。『沈黙のパレード』での内海薫には、柴咲コウという人間のこれまで積み重ねてきた生き方が滲み出ているようにも感じる。
23年に芸能活動25周年を迎えた柴咲は、今後についてこのように語っていた。
「錆びない人でありたい。経年変化も美しく、魅せられる自分でいたい」(encore 23年12月22日)
経年変化とは劣化とはまったく異なる。革製品のように、長年使い込んでいくうちに味の出るものは、経年変化を楽しむことができる。シリーズものにほとんど出演しない柴咲の経年変化をくっきりと見られるのが『ガリレオ』シリーズであり、『沈黙のパレード』なのである。