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 その後も車に布団を載せて家族で北海道や四国、九州に行ったり、毛布を手にオーストラリアに行ったりした。

 陽子にとっては、「佳美は健康な人の何倍もの速さで生きているのだ」という焦りに追われた重い旅である。

 金城学院中学の修学旅行の写真も残されている。

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 1枚は新幹線の車中である。佳美は同級生と共にはにかんだ笑顔を浮かべ、もう1枚は広島の原爆ドームを背景に、セーラー服の約50人の中に溶け込んでいた。

 1週間のその修学旅行にも、陽子は付いて行き、「みんなの邪魔になるから」と言って、別のホテルに宿泊した。佳美も普通の生徒と同じように扱われることを強く望んでいたから、目立たないように支えるしかなかったのだ。

「どうして教室が1階なのか」と生徒から不満が…

 金城学院中学では、進級すると、クラスも2階、3階の教室へと移動していく。だが彼女の教室だけは6年間、クラス替えがあっても1階に留まった。

 生徒用の下駄箱は地下にあったが、佳美の下駄箱だけは一階の教職員用の隅に置かれた。階段を上り下りしなくても済むように、学校側が心を配ってくれたのだった。

 すると、一部の生徒から不満の声が上がった。「どうして自分たちの教室だけが1階なのか」と。佳美の心臓に欠陥があることは知られていなかったのである。

「病気のことは一度も言いませんでした」

 と同級生だった小原栄子は語る。小原は佳美と映画や買い物に行ったことがある。気付くと、佳美の手は冷たく、唇は紫色に変わっていた。それでも辛いとか具合が悪いという弱音を漏らさなかった。

「佳美さんは明るくて、いつも笑っていました。私たちと普通の関係を楽しみたかったんだと思います」

 学校から帰宅すると、ベッドに横たわり、自分で録音した音楽を聴いていた。後になって、陽子は、佳美の部屋から驚くほど大量の本と音楽テープを見つけた。

――そうか、こうして自分を励まし、息を継いでいたのか。

 彼女は『ノンちゃん雲に乗る』という童話が大好きで、「ノンちゃんって、私みたいな名前だね」と言っていた。

 それは小さなノンちゃんが、はてしない青の世界を泳ぎ、雲ぐつを履いた白髭のお爺さんと出会うメルヘンだ。そんな夢を見続けさせたかった。

 しかし、現実の佳美はひ弱に見えながら、強固な意志を隠し持って生きた。

 陽子は、白い水仙のような娘の、凜とした孤立を思って、顔を覆って泣いた。

INFORMATION

本書を原作とする映画『ディア・ファミリー』が6月14日(金)に公開されます。

主演:大泉洋/監督:月川 翔/配給:東宝

映画公式サイト:https://dear-family.toho.co.jp/