1ページ目から読む
3/5ページ目

 今回のライブの構成は、ステージに巨大な幕がかかっていて、最初に数分のVTRが流れると、巨大な幕が一瞬で落ちる。そこに5本のスタンドマイクがあり、その前にメンバーが並んで歌い始めるという、シンプルだがダイナミックな構成。

 シンプルなものこそ、スターじゃないと似合わない。

 最初に歌うのは、ビートルズの有名曲と同タイトルながら、不器用でも下手くそでもそれが人生なんだという言葉を疾走感のあるメロディーで伝える曲だった。

ADVERTISEMENT

リーダーと意見が対立

 タクヤは、ライブが始まる前に、まず、幕の前に1人で出て行き、ファンに話したいと言った。

 これこそシンプルで大胆で潔い。潔すぎるが、誰が聞いてもそのリスクの高さを感じる。1人で5万人のファンの前に出て行き、結婚を報告することによって、ファンが一斉にブーイングをし出す可能性もある。

 そうしたら、もうその日のライブを行える空気には戻らないだろう。THE END。

 メンバーは「もしも」の時のマイナスのシミュレーションもしなければならない。

 タクヤの気持ちを聞いたリーダーは提案した。今から、タクヤの思いを収録して、ライブが始まる前にVTRで流すのはどうかと。

 そのアイデアを聞き、確かに、それだとかなりリスクは減ると思った。1人で出て行くと、タクヤに対して何かを伝えたいと思うファンの熱量がさらに上がり、最悪のことが起きる可能性も高くなる。だが、VTRならば、その可能性は減る。立て直すことも出来る。

 僕もその案がいいんじゃないかと思った。みんなが賛同する空気になった。

 でも、タクヤはやっぱり1人で出て行き、話したいと言った。

 意見が分かれた。

 VTRで伝えるべきだというリーダーと、ファンの前で伝えたいというタクヤ。

メンバーの意外な一言

 リーダーは、リーダーとしてライブ全体のことを考えて提案する。最悪のことが起きた時にライブが成立しなくなる。今日だけじゃない、明日以降のライブにも影響してしまう。

 タクヤもそれは分かっているが、人としてのケジメをつけたいと思っている。

 ゴロウチャン、シンゴ、イイジマサンは、それぞれの案に対してイメージを膨らませて意見を言うが、話はまとまらないままだった。

 無言の時間も多くなり、答えが出ないまま時が過ぎていく。

 ライブの開幕が近づいてくる。

 残された時間は少ない。

 僕はVTRを撮影して流すべきだと思った。タクヤの気持ちは分かるが、リスクを取るべきじゃないと。

 そんな時だった。

 タクヤの目を見て「好きなようにしたらいいと思うよ」と言ったメンバーがいた。

 それは。

 ツヨシだった。