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トップアイドルが異例の結婚報告…決断を後押しした「あるメンバーの一言」《『SMAP×SMAP』放送作家・鈴木おさむが描く》

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『もう明日が待っている』#2

2024/03/31

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, 芸能, 読書

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ツヨシの熱い言葉

 会議中、ずっと自分の意見を言ってなかったツヨシが急に口を開いた。

 まず、それにみんな驚く。

 そしてツヨシの意見が「タクヤの好きなようにしたらいい」という意見だったことに更に驚いた。

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 ツヨシはいきなり温度が上がり、タクヤに向かって続けた。

「俺ら、幕の後ろにずっといるから大丈夫だよ。ファンの人が怒ったり、ブーイングし出したら、俺ら、幕からすぐに出て行くから。俺らずっと後ろにいるから。好きなように好きな思いを伝えたらいいよ」

 いつも自分の意見を主張することのないツヨシの熱い言葉。

 シンゴは、ツヨシの意見を聞き、ニンマリとした。シンゴはツヨシより年下で、昔から兄弟のように一緒だった。年下のしっかりした弟と頼りない兄貴のツヨシ。番組でも天然な発言をするツヨシにシンゴがツッコむことが多かった。

 普段は頼りない兄貴のツヨシが、ここぞとばかりに強烈な矢を放つかのように意見を放った。そして深く刺さった。

 ツヨシの言葉が滞った空気をぶち壊した。

 ツヨシの言葉を聞き、リーダーも納得した。

 イイジマサンも「そうしよう」と言った。

 ゴロウチャンもシンゴもその言葉で動いた。

 ツヨシの言葉でみんな覚悟が決まった。

 タクヤは、コンサートが始まる直前に5万人のファンの前に現れて、自分の言葉で結婚することを伝えることになった。

 これまでの芸能史上、そんなことをした人はいない。

 そのあと会議室で僕はタクヤと2人きりになった。タクヤがみんなの前に出て行き、どんな話をするかを決めるためだ。

 そこに他のメンバーは介在せず、2人で話すことになった。

真っ直ぐすぎる思い

 タクヤはまず、自分が結婚することを改めてファンに伝えたいと言った。

 僕は「ファンに謝るの?」と聞いた。

 アイドルの結婚はタブーというイメージ。

 結婚にショックを受けたファンは当然ながらいるわけで、僕が結婚すること自体を謝るかどうか尋ねると、タクヤは「結婚するのは悪いことじゃない」と言った。

 それで僕はハッとした。

 タクヤが28歳で結婚するという選択を、同じ年の僕としてリスペクトする気持ちがある反面、ガッカリするだろうファンに対して、しっかりと謝ってもいいんじゃないかと思う気持ちもあった。

 この芸能界で10年近く仕事をしてきて、人気商売の人が結婚することは「悪いこと」と思いこんでいる自分がいたことにハッとしたのだ。

 自分の人生の中で、結婚し、家族が出来るのは悪いことではない。めでたきことである。

 そんな当たり前のことも霞んでしまう世界にいたことに気づく。

 彼の中には真っ直ぐすぎるその思いと信念があった。