ケンジさんは担任の教師が部活の顧問であることを伝えようとしたが、A先生の形相に口ごもってしまったという。
「圧を感じて話せずにいると、A先生は机をドンと叩きました。それが怖くて、もう何も考えられない状態になってしまいました。自分はターゲットになってしまったんだ、と。その後、何も言っていないのに『お前、上から目線だな』と言われ、『勉強はしたのか?』と聞かれて『やる限りはやりました』と答えたら、また大きな声で怒鳴られました」
「勉強した」と答えて怒鳴られたケンジさんは、何を言えばいいのかわからなくなったという。
「後から周りの人に聞いたら、『勉強してません』と答えた人はすぐに生徒指導室を出られたようです。ただそれを聞いても納得できませんし、なぜ怒鳴られたのか今でもよくわかりません。他にも怒られた友達がいて、一緒にしょんぼりして帰りました。あの部屋にいたのはせいぜい1分くらいだと思うんですが、1時間ぐらいいたような苦しさでした」
生徒指導室の前で並んでいる他の生徒には、誰がどう怒鳴られたのかは筒抜けだ。思春期の高校生にとって「恥ずかしい」気持ちも強かっただろう。その日は部活があったが、ケンジさんはやる気が出ずそのまま帰宅したという。
「自責の念が強くなって、『死んじゃえば楽になるんじゃないか』と…」
複数の教員から印鑑を捺してもらう「欠点指導」という方法は、鹿児島県内では「スタンプラリー」と呼ばれ多くの学校で行われているという。
「帰る途中も、帰ってからも1人で部屋の中で凹んでいました。ベッドで横になって考えているうちに、自分はダメな人間で、ダメだから勉強もできないんだとどんどん思いつめていきました。知らない生徒にも恥ずかしいところを見られて、学校に行きたくないな、とも思いました。だって紙に印鑑が1つあるかないかでいきなりブチ切られるって、理不尽じゃないですか」
朝になっても、ケンジさんの気持ちは一向に晴れなかった。そして母親とスーパーへ買い物に行ったときに、こっそりと練炭を購入した。
「自責の念がどんどん強くなって、『死んじゃえば楽になるんじゃないか』という思いが頭から離れなくなっていました。学校でも家に帰っても、ずっと死ぬことばかり考えていました」