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まさかの学校の返答「死亡していないので調査対象ではない」

  A教諭の対応に不信感を持った父親は、校長にもケンジさんの自殺未遂の事実を伝え、A教諭の指導がその原因になった可能性について調査を依頼した。しかし、校長の返事は「調査できない」というものだった。

 そのため、文部科学省の「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」に基づいて、調査をするように校長にお願いした。「欠点指導でA教諭とやりとりをしていたときの出来事が、今回の自殺未遂の原因になっているのではないか」と考えたのだ。しかし約8カ月後、返ってきたのは調査はできないという回答だった。

「文部科学省のルールは自殺による死亡が前提で、ケンジは死亡していないので調査対象ではない、という返事がありました。とても納得できません」(父親)

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写真はイメージです ©AFLO

 ケンジさんは記憶が混乱するなどの後遺症があったため入院を余儀なくされた。それでも半年ほどで同じ高校に復帰し、卒業。現在は大学で教職課程に進み、教師を目指しているという。

「友達には、自分が自殺未遂をしたことは言いませんでした。下手なことを言いたくないというか、プライドですかね。ただA先生から指導を受けていたことは知っていると思うので、何があったのだろうと不思議に思う人はいたでしょうね」(ケンジさん)

  自分を追い詰めた「教師」という職業を目指すのは、どんな心情なのだろう?

「大学を卒業したら、鹿児島に帰って教師をやりたいです。子どものためにならない仕組みや変なルールを減らしていきたい気持ちが強いんです。僕がいた高校では、テストを受けるときは黒いカバンを持参する義務があったんですが、理由がよくわからないですよね。大学で教育について勉強したことで、自分が受けた指導がありえないものだったこともよくわかりました」

  学校という閉鎖空間において、子どもから見て教師は絶対的な強者に見える。ましてその指導が不適切であれば、子どもが追い詰められてしまうのは想像にかたくない。実際に、「指導死」と見られる自殺のケースは多い。

  「指導死」の特徴は、一定期間続くいじめや虐待、差別などによる自殺行動と違い、指導からの時間的な猶予が短いことだ。ケンジさんの場合、A教諭の指導から自殺未遂までは2日しかなかった。自身の経験を踏まえて、こう話す。

鹿児島県 ©AFLO

「教師にきつく叱責されても自分を責めすぎず、本当に自分が間違っているのかを考えてほしい。おかしいのは教師や学校の方で、子どもには落ち度がないことも多いんです。何より、学校が子どもを追い詰めないように変わることが大事だと思います」