2023年、「ルフィ事件」が露見すると、国際問題に発展しかねないと危惧したフィリピン当局がようやく重い腰を上げた。特殊詐欺事件の捜査を本格化、ルフィグループの残党たちの関与を確認し、検挙に乗り出した。
このとき民泊施設のようなところで生活をしていた2人も拘束された。熊井は藤田の子を宿していた。
裁判官に「お子さんの顔は見ましたか?」と問われて…
その後、2人は強制送還され、窃盗罪で裁きの場に立つことになった。熊井には懲役2年(求刑同4年)、そして藤田には懲役3年(求刑同6年)の実刑判決がそれぞれ言い渡されている。
2人が起訴された事件に関しては合計約600万円の被害が確認されている。しかし、その全てにおいて弁済がなされた。8歳上の熊井の姉が被害弁済金と示談金を負担したのだ。
熊井は帰国して約3か月後、拘置所内で藤田の子を出産している。父親となった藤田は法廷で、裁判官に「お子さんの顔は見ましたか?」と問われて、「接見禁止がついているので、顔も名前も、どうしているかもわからない」と答えている。
裁判を通して熊井も藤田も、「罪を償った後は、生まれた子どもを含めた3人で生活をしていきたい」と未来を語った。熊井と藤田の両親も金銭面を含めて支援をしたいと証言したことは、殺伐とした事件の一連の裁判のなかで唯一の救いとも言えるものだ。
熊井の子もルフィの被害者
結局、2人目の「ナミ」は自らの意思に反してルフィの子となった。言葉巧みにだまされて渡航、結果「闇バイト」に手を染めた。熊井は自らの意思で、何度も帰国し、贖罪する機会があったから、同情することはできない。南の国で意気投合した仲間と逃避行を続けた挙げ句、被害を大きくした。
まだ自らの意思で立つこともできない子どもに、両親の懲役刑は重くのしかかる。我が子と離れ、塀の中にいる母親である熊井は何を思うのだろうか。
一連の裁判で熊井は「被害弁済はしたのだから、子のためにも執行猶予が必要」との主張を繰り返した。しかし、熊井と子を引き離したのは法ではなく、熊井自身が犯した罪に起因するものだ。その子もまた、ルフィの被害者なのだ。