「かけ子」36人の身柄が拘束されるが…
しかし、事態が急転した。熊井がフィリピンに渡ってから1か月半、2019年11月14日、グループの拠点となっていた廃ホテルが現地警察に摘発され、そこにいた「かけ子」36人が身柄を拘束された。
ルフィの幹部4人と、熊井ら一部のかけ子は運よく拘束を免れた。しかし拠点が潰された以上、熊井ら残ったかけ子は、恐怖や脅しによる支配から一旦は逃れることになった。このタイミングで現地の警察に出頭するという選択肢もあったはずだが、熊井が選んだのは、かけ子を続けることだった。
その後、残ったルフィグループは拠点をいくつも変えた。そして熊井はあれだけ抵抗した詐欺の電話を進んでかけ続けた。
かけ子グループのリーダーと“男女の仲”に
熊井も山田李沙と同様、「成績優秀」だった。その労いで、幹部らにセブ島旅行に招かれたこともあった。そしてはたと気づいた時にはかけ子の仕事に没頭していた。
かけ子グループのリーダー、2歳年下の藤田海里(24歳)の存在が熊井をフィリピンにつなぎ留めた。藤田も「高額バイト」の誘いに乗った結果、だまされるかたちでフィリピンに渡っていた。慣れぬ土地での生活、似た境遇。2人が男女の仲になるまで、そう時間はかからなかった。
「当局に逮捕されて、離れ離れになるならば、今のままがいい」
のちに法廷で省みた藤田との恋は、どん底のなかに差すひと筋の光だった。結局、藤田の下での「かけ子生活」は1年半近くにも及んだ。
約2年、2人でフィリピン国内を逃避行
そして2021年3月、熊井のスマホが震えた。渡邉らルフィグループ幹部4人がフィリピン当局に拘束されたというニュースが飛び込んできたのだ。
「これで危害を加えられることもなくなった」
2人は安堵した。そしてかけ子生活から、足を洗う決心をしたのだった。
しかし、帰国するという選択肢はなかった。それから約2年、2人はフィリピン国内で逃避行を続ける。観光ビザでフィリピンに入国した2人がどのように生活していたのかは定かではない。裁判でもその期間に関しては証言を拒否している。