東日本大震災から5年半が経った2016年9月25日、岩手県沿岸部から映画の灯が消えた。
この地域から劇場をなくしてはいけない
20年続いた、みやこシネマリーンの閉館。多くのファンが別れを惜しむ中、チラシを配る男がひとり。そこには『みやこシン・シアタープロジェクト』と書かれていた。
「被災地域に映画を届け、心の復興を担ってきた映画館が閉じてしまうことになり、多くの人が悲しみに暮れました。文化を通じた復興をテーマに活動していた私は、この地域から劇場をなくしてはいけないと思い、動き始めたんです」
そう語るのは有坂民夫さん。シネマリーン閉館後、新たなスタイルで開設されたシネマ・デ・アエルの代表である。
「宮古に新しく劇場を作るなら、どんな場所にしたい?」
有坂さんは地元の人たちと対話を重ね、ここにしかない唯一無二の“特設”映画館が生まれる。
会場は江戸時代に酒蔵だった歴史的建造物で、上映は月に2日ほど。プロジェクトメンバーの代表は有坂さんだが、年齢や経験に関係なくメンバーがフラットに運営に携わる。
経営者だけが苦労を一身に背負う方法では続かない
こうした一風変わったスタイルは、大事な場所を長く続けていくため。