森脇 まず1つ目が「品を保つこと」。少年誌こそ上品であるべきなんだと。『うる星』の諸星あたるも女性に目がない浮気者ですが、実はラムを大切に思っているし、根底には優しさがある。
―― ちょうど有藤さんが担当されていた時期に発表された『ラムちゃん、ウシになる』『最後のデート』などは、まさにそうした一面がのぞく名エピソードですね。とくに後者は、あたるが自分に恋する幽霊の少女に最後まで寄り添い続ける姿が胸に響きます。
有藤 高橋先生にとっても思い出深い一作ということで、2022年には『最後のデート』の複製原画も発売されました。私自身にとっても屈指のお気に入り回です。あたるはとにかく女性に優しい。ラムちゃん以外に彼を好きになるキャラクターがいたって不思議じゃない、と思ったんです。
森脇 実は読者から一番バレンタインチョコをもらったキャラクターってあたるなんですって。
―― え、全るーみっくキャラで、ですか?
森脇 はい。僕もすごく意外だったのですが、乱馬でも犬夜叉でも殺生丸でもなく「あたるが一番」と高橋先生がおっしゃっていました。やっぱり品を大切に描かれているから、こうして読者に愛されるんですよね。
「このハードルを越えなければ、絶対に世に出さない」
――『境界のRINNE』の主人公・六道りんねの父親、鯖人も作中人物はおろか高橋先生からも「やってることは本当にクズ」と言われる外道ぶりですが(『高橋留美子本』より)、どこか憎み切れません。息子を借金の連帯保証人にして女に貢ぎ、詐欺を働きまくっている一方で、突如行方をくらませた妻を密かに探し続けていたという健気さがあるんですよね。
森脇 どんな悪役にも、その血には生みの親である先生の良心が流れていると思います。『RINNE』の終盤、バラバラになっていた六道一家と、ヒロインの真宮桜がなんだかんだで温泉に集まる話があって(『思い出の宿』)。あのエピソードはほっこりして好きですね。先生も「家族旅行ができて良かったね」と喜んでいらっしゃいました。
―― キャラクターへの深い愛が感じられますね。そんな高橋先生が「週刊連載をするうえで大切にしていること」のふたつ目は何でしょうか?
森脇 「自分のなかでの面白いハードルを絶対に下げない」ことです。週刊誌はスケジュールがタイトなので、どうしてもネームの時間がない、作画が間に合わないといった事態は起きるけれど、「ここを越えない作品は何があっても世に出さない」というラインを決めなさいとおっしゃっていました。『RINNE』のある回でも、いつもなら23時からネームに入って、翌朝の6時には上げてくださるのですが、その日はオチがまったく決まらなくて。でも先生は「時間がないからこのぐらいでいいだろう」と妥協せず、結局お昼近くまで粘りに粘ってくださったんです。
―― いただいたネームは、いかがでしたか?
森脇 感激しました。「確かに鮮やかだ!」と唸る完成度で。高橋先生は「漫画はあくまで漫画」であることにすごくプライドを持っていらっしゃるんです。どんなにつらい現実があっても、漫画をめくっている間はそれを忘れさせてくれる、とびきり楽しいエンターテイメントなんだと。46年間ずっと変わらないその姿勢がめちゃめちゃカッコいいなと、僕はシビれ続けています。