レギュラーには最後までなれなかったが、野球を続けてきてよかったと素直に思える3年間だった。施設で暮らしている仲間の中には、グレてしまって悪い道に進んでしまう者もいた。だが、俺は野球に打ち込んでいたから、他のことに目が向かなかった。野球をしたことで人格的に磨かれた部分もあったと思っている。
ちなみに、中学のときまで施設で一緒に過ごした同級生や、お世話になった施設の職員の方とは、今でもSNSでやり取りしている。昨年の冬には、子どもたちへのお土産のお菓子をいっぱい持って施設に里帰りもした。俺にとって施設は第二の故郷のような存在だ。
これは余談だが、詐欺組織のなかには俺が施設育ちであることをこれ見よがしにSNSで書き立てたところもあった。また、嫌がらせのつもりなのか、突撃した際、わざわざ紙に俺の育った施設の名前を大きくプリントして、カメラの前で広げて妨害してきたヤツもいた。言っておくが、俺は施設で育ったことに対して何の後ろめたさも感じていない。そんなことをしても、俺は何のダメージも受けない。いい年をした大人が揃いも揃っていったい何をやっているのか。心底がっかりさせられた出来事だった。
さて、高校を卒業したら、施設を出て自活をしなければならない。
そこで選んだ進路は、短大の夜間部への進学だった。正直、特に目的があったわけでない。「学費も安いし、勉強を続けたいなら四大に編入することもできる。働きたければ2年で就職してもいい」と勧められて選んだものだった。
そんな感じで進学したので、勉強にはあまり身が入らず、昼間はアルバイトをしたり、アットホームな野球サークルに参加したりと、のんびりした生活を送っていた。
ちなみにこの頃アルバイトをしていた津駅前の老舗焼肉店「食道園」は、名産の松阪牛が良心的な価格で食べられる名店だ。まかないのご飯の美味しさは格別で、今でも帰省した際には顔を出している。読者のみなさんも機会があればぜひ訪れてほしい。
そんな感じで、だらだらと短大生活を送っていたのだが、卒業を2、3か月後に控えた頃にちょっとした事件が起きる。
当時、俺は「食道園」と並行して、宅配ピザ屋でもアルバイトをしていたのだが、そのピザ屋をクビになってしまったのだ。原因はSNSへの動画の投稿だった。店内の、お客さんでも入ることができる部分を撮影した動画をSNSにアップしたところ、本部に知れるところになり、出勤停止の処分を受けたのだ。何の迷惑行為もしていなかったが、当時はバイトテロが社会問題になっていたので、大げさにとらえられたのかもしれない。
「マルチ商法」との出会い
仕方がなく別のアルバイトを探し始めたが、卒業までの数か月しか働けない学生を雇ってくれるところはなかなか見つからなかった。
「なにか手っ取り早く稼ぐ方法はないだろうか」
そう思いインターネットを見ていたら、「投資」や「FX」といったキーワードが目に 留まった。そのサイトの記事を読んでみると、投資によって若くして大金を得ている人が続出しているらしい。
それから俺は、投資やFXの興味を持って本を読み漁るようになった。
そして、勉強している様子をInstagramに投稿したところ、友人のひとりが「稼いでいる人」を紹介してくれることになる。
これが俺とマルチ商法との、初めての出会いだった――。