もっともグルタミン酸そのものは、1866年にドイツの化学者リットハウゼンによってすでに発見されていた。名前の由来は、リットハウゼンがこの物質を取り出す際に、小麦粉のグルテンを使ったことによる。
池田の発見の肝は、グルタミン酸を中和してグルタミン酸の塩にすると、強いうま味が生じることを突きとめたことだ。グルタミン酸自体は酸性で、舐めても酸っぱくておいしくない。しかし、水に溶かして中和すると、好ましい味になる。池田はこの味を「うま味」と命名した。
さらに池田は、鈴木製薬所(現・味の素)の二代鈴木三郎助の協力を得て、調味料の開発に着手する。グルタミン酸を中和する実験を行い、なかでも水に溶けやすく、扱いやすかったのがグルタミン酸ナトリウム(MSG)だった。こうして翌1909年(明治42)、商品化にこぎ着けたのが「味の素」である。
新しい調味料の開発を目的としていたうま味研究
池田が研究を始めた動機は、国民の栄養状況を改善したいという思いだった。日本初の医学博士である三宅秀が唱えた「佳味(かみ)は消化を促進する」という説を目にした池田は、「佳良にして廉価なる調味料を造り出し滋養に富める粗食を美味ならしむること」がその一助になると考えたと後年振り返っている。研究の最終的なゴールは、昆布のおいしさを活用した調味料をつくることに最初から設定されていたのだ。
日本はその後も、うま味の研究を牽引していった。その際に手がかりとなったのは、やっぱり、だしだった。
1913年(大正2)、池田の研究生だった小玉新太郎によって、かつお節のうま味成分がイノシン酸に起因することが解明された。さらに1957年(昭和32)、ヤマサ醤油研究所の国中明はイノシン酸を研究する過程で、グアニル酸の塩にも強いうま味があることを発見。のちに武田製薬工業食品研究所の中島宣郎によって、干ししいたけのうま味成分がグアニル酸であることも特定されている。