また国中らは、アミノ酸系のグルタミン酸と、核酸系のイノシン酸やグアニル酸を組み合わせると、飛躍的にうま味が増す「うま味の相乗効果」が生まれることも明らかにした。つまり、昆布とかつおの合わせだしは、理に適った方法だったことが判明したのだ。
脂肪分が足りない淡白な日本食だからだしが発展した
昆布、かつお節、干ししいたけ。日本でだしとして使われてきた食材から、次々とうま味が発見されたのはなぜか。
その理由は、日本の食生活が野菜や穀類を中心に、魚や大豆製品などのタンパク質が加わった淡白なものだったからだといわれている。
味覚研究で知られる栄養化学者の伏木亨は、料理のコクを生み出す3要素として「糖と脂肪とダシのうま味」を挙げる。長く輸入に頼っていた砂糖が庶民の口に入るようになったのは江戸時代後期のことだ。肉類や乳製品、油脂といった脂肪分とも長く縁遠かった。淡白な食事のもの足りなさを補うにはうま味が欠かせなかったのだ。
グルタミン酸を豊富に含む醤油やみそと同様に、だしもまたうま味を加えるための解の一つだった。池田はそのだしをさらに進化させ、手軽にひとさじで料理にプラスできるようにしたのだった。
大正時代に流れた「原料は蛇」というデマ
池田の高い志によって誕生した味の素だったが、最初から手放しで受け入れられたわけではなかった。
販売が軌道に乗り始めた大正時代、「原料が蛇である」というデマが流れ、新聞広告に「原料は小麦」「原料は小麦の蛋白質」といちいち明記しなければいけない事態に見舞われた。公式サイトの「味の素グループの100年史」では、デマの原因を「古くから日本の各地には、蛇が珍味をもたらすという伝説が存在していたので、これが『味の素』と結びついたという説もある」と推測している。
あまりに簡単においしくなるために、これには何か裏があるのではないかといぶかるほど、当時の人々が驚いたことの証左かもしれない。味の素論争はすでにこの頃から始まっていたのである。