帝国劇場に出演するなんて考えたことがなかった
――舞台経験の長い田口さんも、疲れを感じることはありますか。
田口 大劇場での長い公演は、じつはこれがはじめてなんです。本当に、自分の視野になかったので。帝国劇場みたいな大きな劇場で、自分が何かを演じたりするということが。
自分のテリトリーが下北沢の本多劇場あたりですから、僕らみたいなアングラ出身の俳優にとって「大きな劇場」といえば、シアターコクーンくらいまで。そのなかで帝国劇場は、宝塚の方たちなどが舞台にたつイメージで、必ずマイクをつけて演じるような大劇場。そういうところに自分が出演するなんて、考えたことがなかった。
――いわれてみれば、ふだんの居場所は本多劇場。なんだか不思議な感じがします。
田口 不思議ですよねえ! 自分でもそう思います。「あ、楽屋ひとりにひとつなんだ、すげーな」みたいな(笑)。
今回の帝劇公演はダブルキャストなので、その方とシェアしてますけれども。同じ演劇でもこんなに違うんだな、それぞれの世界があるんだなと思いました。
――「こんな世界があるんだ」と素直に感じて言葉にされる田口さんが、とても田口トモロヲさんらしいというか。
田口 あはは、そうですか。なんていうか、僕は本当に、好みが狭い人間なんですよね。アングラ演劇とパンクから仕事を始めて、そんなに上限を求めていなかったというか。
好きなことをできればいいやという発想なので、なになにに出ているからすごいね、みたいなことに興味がなかった。
だから、帝劇に出てるなんてすごいねとまわりの方にいわれて、ああすごいことなんだ、そういえば楽屋ひとりにひとつだな、っていう感じです。あ、そうなんだって。
45年住んだ下北沢から吉祥寺と荻窪の間に引っ越した理由
――40代で「プロジェクトX」に出演なさって、周囲の反応が変わったときも、「あ、そうなんだ」って。
田口 自分の中では、アングラ時代からやっていることはそんなに変わらない。自分のやりたいこと、できることをできたらいいなというスタンスでやってきたので。
――田口さんといえば、足掛け45年下北沢に住んでいるとおっしゃっていて、いまも下北沢にお住まいですか?
田口 いや、じつは引っ越しをしまして。下北は駅前の再開発工事がどんどん進んで、年寄りにはちょっとしんどくなってしまって。
――お差し支えなければ、どちらに?
田口 吉祥寺と荻窪の間に。いろんなエリアを探して、サイズが大きなふたつの街に囲まれた静かな駅で、個人商店が生き残っていて、丁寧にものをつくっている印象で、ちょうどいいなあと。