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 27歳。今後の身の振り方に悩む柴田にとっては「渡りに船」と言っていいかもしれない。日本に友達と呼べる者もいなければ、東京郊外に住む両親とも疎遠になっている。

 ここに未練などないのだ。それならフィリピンに行ってみよう。一生に一度の冒険、流れに身を任せてみよう。決断までにそれほど時間はかからなかった。柴田は機上の人となった。

異国で恋に落ちた男の正体

 2019年3月16日。マニラのニノイ・アキノ国際空港に柴田はひとりで降り立った。

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 初めてのフィリピンだった。柴田を笑顔で出迎えたのは、ルフィグループの幹部、渡邉優樹だった。焼けた肌に爽やかな笑顔。身長180センチはあろうか。がっしりとした体躯をブランドもののスーツで包んでいるが、そこはかとなく漂う「ある種のにおい」。

 夜の世界が長かった柴田の直感は的中する。決して真っ当ではない世界に片足を突っ込んでしまったことを――。

 ここで逃げ出すこともできただろう。しかし、妖しい雰囲気ながら優しい言葉をかけてくれ、今まで出会ってきた男とはどこか違っていた。柴田は渡邉に惹かれたのだ。

柴田千晶被告が惚れたルフィグループの幹部・渡邉優樹被告(フィリピンの現地メディア「GMA news」より)

渡邉に命じられるがまま、日本からフィリピンに金を運ぶ

 2人はその日のうちに男女の仲になった。柴田が渡邉に傾倒していったのだ。渡邉は普段接するキャバクラの客や男性店員などと比べ、遥かに紳士的だった。

 一緒に過ごした時間はわずかだったが、場末の客とは比べものにならないほどカネを持っていた。食事に連れてってもらった店も洗練されていた。

 渡邉といる時間はそれまでの人生で最も彩りに満ちていた。そして渡邉から何か頼まれると断ることはできなかった。むしろ渡邉に褒められたい、渡邉にもっと近づきたい、恋愛感情を隠せなくなっていた。

 柴田は渡邉と出会ったその日から渡邉の手下となり、「愛人」になったのだった。

 そんな柴田の“情”はすぐに行動に現れた。翌17日に帰国すると、渡邉に命じられるがまま、配下の特殊詐欺集団が集めたカネを日本からフィリピンに運ぶ準備を始めた。