静岡県の態度が頑なになった決定的なタイミング
静岡県が頑なになったのは、JR東海が2013年の環境影響評価準備書で「トンネルの湧水により、大井川上流域の水は毎秒2立方メートル減少する」と公表してからだ。トンネルによって湧水が発生し、大井川の水が減る。民間企業のJR東海が本当に補償してくれるのか、と不安になったのだ。川勝知事は知事意見として、「静岡県内で発生した水はすべて大井川に戻すこと」と附した。
約2年後、JR東海は解決策として毎秒1.3立方メートルを導水路トンネルで戻し、残りは必要に応じてポンプアップで戻すとした。
JR東海は「水利用に影響が生じた場合にその影響の程度に応じて代替水源の確保などの環境保全措置を実施する予定です」「トンネル内湧水を汲み上げて、非常口から大井川に戻すのも一つの選択肢と考えています」と、減った水量に応じて対応する姿勢だった。
しかし川勝知事は「県民の命の水だ。全量を戻せ」と再度主張した。
しかも「一滴たりとも」と、まるで戯曲「ヴェニスの商人」のようなことを言う。それにJR東海も、売り言葉に買い言葉のように「全量戻す」と約束した。もともと環境影響評価はそうなっている。
しかし静岡県側はこれで収まらない。ポンプの数と位置を説明しろ、本当にそこに置けるのか、など根掘り葉掘り問いただした。その中には「将来、リニア中央新幹線が廃線になったらどのように埋め戻すのか」など、行きすぎた項目もあった。完全に「JR東海の言うことは信用できない」という態度だ。
ただJR東海の回答書も、お世辞にもわかりやすいものとは言えなかった。表計算ソフトのセルにびっしりと文字を並べた書類を非専門家が読み解けるかは不明だ。
もし建設主体がJRTT鉄道・運輸機構ならば、事前に手厚く説明をして、ここまでこじれてはいなかっただろう。
国が東海道新幹線の限界を把握し、もっと早く中央新幹線に着手していれば、JR東海が直接建設することはなかったし、静岡県とこじれることもなかっただろう。その意味では国にも責任がある。