すると店長は少し考えてから次のように話し出した。「ここ堀切の立ち食いそば屋も松本の手打ちそば屋も同じ会社が経営しているんです。株式会社フリーボードという歌手やタレントを有するレコード会社です」そういって会社のホームページを見せてくれた。
「大木綾子は今売り出し中です。柏原芳恵とか知ってるでしょ? 他にはさいたまんぞう、鶴岡雅義と東京ロマンチカ、ペドロ&カプリシャス、フォーリーブスとかいるんです」と話を続けた。
そこまで聞いてコップの水を吹き出しそうになってしまった。往年の大スターたちが勢ぞろいだ。しかもあの「紅茶のおいしい喫茶店~」の柏原芳恵が所属する会社だったのだ(「ハロー・グッバイ」作詞:喜多條忠、作曲:小泉まさみ)。「カレーのおいしい立ち食いそば屋~」とか歌ってくれないだろうかとか、店に来てサイン会をやってくれないかとか妄想がぐるぐる回り出してしまった。「大木綾子」のポスターが貼ってあったのにはそんな背景があったのかと納得した。
店長は今もその会社に所属していて、若い時はタレントの発掘や教育開発などを担当していたそうだ。ネット配信が全盛になりCDなどの売り上げが下がることが予想されてきた10年位前、事業の多角化でまず松本に手打ちそば屋を開業。それがうまく軌道に乗った。そして、東京でもそば屋をやろうという話があがって「どうせなら立ち食いそば屋がいいのでは」という話が5年前頃には固まっていた。しかしコロナ禍があって今年まで延期となって、ようやくオープンにこぎつけたという。
「松本の店から手打ちそばを取り寄せることも考えたんですが、コスト的に安くできない。それなら麺は埼玉の製麺所から手配して、天ぷらやつゆは自家製でやろうということになった。たまたま居ぬき物件があったので、思い切って堀切菖蒲園にした」と話す。
そばつゆの出汁には驚きの食材が
なるほど、東京では立ち食いそば屋に徹してオープンしたというわけである。柏原芳恵の余韻が冷めやらぬ中、次にそばつゆの話になった。