噂は真実ではないと判明したが…
しかし、もっとも記憶に残るのは、「ボビー、永遠に」という巨大な旗だ。外野席の半分を覆うほど大きく、30列分ほどの高さもある。ある試合のあと、怒り狂ったヴァレンタイン・ファンが、スタジアムの外に集結し、瀬戸山との会見を要求。球団代表と部下たちは、怒ったファンが退散するまで、中に隠れざるを得なかった。
ヴァレンタイン自身は沈黙を守った。契約書の中に、チーム批判を禁じる条項があるからだ。破れば、クビかサラリーをカットされる。
しかしシーズン半ばには、応援団の陳情書の署名が11万2000人に達していた。まず父である重光武雄に提出され、東京の〈ロッテ〉と、規則的に日本を訪れる韓国の〈ロッテ〉にも回覧された。しわくちゃの長老は、マリーンズの評判がガタ落ちになっている事態と、息子昭夫のやり方全般に怒り心頭で、ロッテの内情の独自調査を命令。
ヴァレンタインもサポーターたちも、この調査によって、瀬戸山と、石川と、米田が失脚することを期待した。年長の重光武雄が、彼らの素行の悪さを知れば、きっとそうなるに違いない、と。
実際、スタッフの多くがそうなることを期待していた。
ところがあにはからんや……
調査の最終結果によって——一般には公開されなかったが——、ヴァレンタインにかかわる噂は、真実ではないと判明。実際、インタビュアーの大半は、すべてではないにしろ、ヴァレンタインを支持した。
ところが結局、老オーナーは、いずれにせよアメリカ人監督は辞めるべきだ、と決断した。困っている息子をこれ以上放っておくわけにはいかない、と思ったか、ほかにどうすべきかわからなかったのだろう。数十年間、自分が所有していた野球チームについて、ほとんど何も知らないからだ。
いずれにせよ、彼は口には出さなかった。