ボールは女子大の塀を越えて大学内に。これは親父の大暴投、というわけではない。親父の巧妙かつ狡猾な作戦なのだ。
女子大生に「おわびに家まで送って行こうか?」と…
本来、女子大は関係者以外立ち入り禁止。ただ、時代もあってか小さい子は侵入可だった。俺はボールを捜しに大学内へ。しばらくウロウロしていると、小さい子が困っているのを見兼ねてか、
「どうしたの?」
と、女子大生が声をかけてきてくれる。
「ボールが……」
と俺が言うと、一緒になって捜してくれる女子大生。やがてボールを見つけると、たいてい大学の校門まで送ってくれた。
「ごめんなぁ、うちの息子が~」
親父が俺と女子大生の方に近づいてくる。
「おわびに家まで送って行こうか?」
もうお察しだろう。これは俺をダシに使った親父の巧妙かつ狡猾な女子大生ナンパ術だ。
授業参観は格好のナンパ場
女子大生を車の助手席に乗せ、送っていく。その後、言葉巧みにトークを展開し、笑いをとり、そして連絡先を聞き出し、後々ごはんに誘うのだ。
そもそも親父は所構わず女の子をナンパする男だった。
授業参観に来た時も、カッコつけの親父は、なぜかその日専用に髪を真っ赤に染め、坊主にし、勝負服の革ジャンを着て、教室を香りで塗り潰すほどの香水を撒いてやってくる。
そして周囲の既婚者である同級生のお母さんをナンパしまくる。
親父にとって授業参観は、格好のナンパ場だったのだ。
改めて文字にすると「本当にあった話か?」と自分でも少し疑ってしまう。ただ当時はこれが日常で俺の中の普通だったのは確かだ。
まぁとにかく俺の親父は、どんな親父より明るくて豪快で、そして何より破天荒な男だった。
そんな親父に巻き込まれ、俺は、“中学1年生にして実家で一人暮らし”という事態に巻き込まれていく。
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