自分の言葉で変換すると…
この春から真山さんと共に私塾「正疑塾」を共催する教育家の荒木博行さんは、『ロッキード』を読んだ後、こう問いかけてきたという。
「どうして、あんなことができるんですか」――“あんなこと”、すなわち、事実を集め検証するのがノンフィクションだが、そこに新しい視点を加え、事実を再構築した上で、説得力のある仮説を立ち上げる――ということを指す。
「調査し取材し、それをまとめるだけでも大変なのに、必要な事実を選別し、そこから今まで誰も考えたことがなかった“新しい構図”を生み出すのは、思考法そのものが違うからじゃないのか」―― 荒木さんから、そう尋ねられて、真山さんはこう答えたという。
「調査や取材をして得た事実を、一度自分の言葉で変換する作業を常に心がけている」
その変換作業の前には、入手した事実に疑いの目でフィルターをかける。もしその事実に疑義があった場合は、なぜ、そこが歪んだのかを考える。真実が別にあるとすれば、それはどういうものかを考え想像する。
「そうすると、別の絵が浮かんでくることがあるんです」
それを、「週刊文春」の編集長は、「妄想」と呼び、荒木さんは「独特の構築力」と呼んだ。ビジネスシーンや情報収集の過程で「問いを立てる」重要性を説き続けている荒木さんから見ても、真山さんが『ロッキード』で見せた思考プロセスは驚きだったようだ。
「『ロッキード』執筆の過程の中で繰り返した、事実を疑う意味と方法を、様々なテーマ別に整理してまとめたのが『疑う力』(文春新書)です」
押し付けられた「正しさ」への違和感を見過ごさず、嘘がまかり通る社会で自分自身の信じる「正しさ」を拠り所に歩み続けるために、疑う力が、今、必要とされている。