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 夜の寒さは思いのほか厳しかった。焚き火を絶やさないように、女性3人が約2時間ごとに交代で火の番をした。くべる薪がなくなってきたら、ヘッドランプを点けて交代で拾いにいった。早苗が富士登山のときに購入したヘッドランプが、このとき役に立った。

食料は全部食べてしまった

 翌16日は、朝6時ごろから行動を開始した。今日中には帰れるものと思っていたので、残っていた食料、チョコレート1箱、菓子パン2個、スナック菓子の残りは、この日の朝までに全部食べてしまった。あとはわずかにタブレット菓子が残っているのみだった。

「ここを下っていけばキャンプ場に出る」という祖父の言葉を信じ、4人は前日下ってきた沢をさらに下っていった。しかし、道は険しくなるばかりで、崖や滝も現われるようになった。出発して約3時間半後、早苗は「これは絶対違う!」と確信し、「引き返そう」と提案した。「今からでも引き返していけば、大山の頂上まではもどれる。そうしたら確実に家に帰ることができるんだから」と。それに対して祖父は「下り続けるべきだ」と強く反対したが、結局は「もどろう」ということになり、祖父も渋々従った。

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疲労から祖父が幻覚を見るように

 ビバーク地点までは、問題なくもどることができた。だが、そこからしばらく登っていったところで、どちらへ行ったらいいのかわからなくなってしまった。前日、ほとんど周囲の景色を見ずに下っていたからだ。

 時間は昼ごろ。朝から6時間も行動し続けて、祖父は疲労から幻覚を見るようになっていた。「あそこに人がいる」「あっちに道路がある」などと言っては、そちらのほうへ走っていってしまうのだ。早苗は「そんなものはないから、お願いだから私たちといっしょに行動して」と泣いて説得した。このときがいちばん怖かったと、彼女は振り返る。

写真はイメージ ©iStock.com

 この時点で、一行は救助を待つことを決断する。4人が帰ってこないことを心配した父親が、きっと警察に捜索願いを出してくれているはずだと信じて。

 ビバーク地点は、前日と同じように、沢から一段上がった樹林帯のなかに定めた。捜索のヘリコプターに発見されやすいように、なるべく開けている場所を選んだ。早速、焚き火を起こし、昼過ぎからはほとんどその場所を動かずに過ごした。