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山はおそろしい

「遺書を書こうと思ったぐらい落ち込みました」日帰りハイキング→遭難4日目に20代女性が“絶望”を感じた意外な“ある出来事”

「遺書を書こうと思ったぐらい落ち込みました」日帰りハイキング→遭難4日目に20代女性が“絶望”を感じた意外な“ある出来事”

『ドキュメント生還』より #2

2024/05/05

genre : ライフ, , 社会

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遭難の原因は何だったのか

 4人が救出された場所は、下山予定とはまったく方向が違う、唐沢川と大ノ沢の出合付近だった。どこで道を間違えたのかははっきりしないが、途中で撮影した写真や救出場所から推測するに、唐沢峠から唐沢川のほうへ下りていってしまったものと思われる。

 2万5000分の1地形図や一部のガイドブックには、唐沢峠から唐沢川沿いにコースが印されている。「下っていく途中に標識や手すりがあった」という遭難者の証言もあったが、かつては登山コースになっていたところが、現在は利用する人が少なく荒れてしまっているのだろう。

 彼らがもし唐沢峠で道を間違えたのだとしたら、本来下りるべき雷ノ峰尾根の分岐を素通りしてしまっているわけである。注意力が散漫になっていて、うっかり見過ごしてしまった可能性は高い。

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 ちなみに祖父が持っていた地図は地形図でも登山地図でもなく、パンフレットかなにかの概略図だったという。彼はコンパスも高度計も携行していたそうだが、これらは地形図と併用してこそ初めて威力を発揮するものである。地形図がなければ、持っている意味はあまりない。

写真はイメージ ©iStock.com

道迷いに陥るときの典型的な心理パターン

 三叉路の分岐から下っていくとき、途中から沢沿いを行くようになり、道が徐々に不明瞭になっていったにもかかわらず、4人はそのまま下り続けてしまった。そのときの心境について、早苗は次のように述べている。

「道を間違えたことには途中から薄々感づいていたけど、それを認めたくなかったんだと思います。心理的にも体力的にも疲れてきていて、引き返すのがいちばんだとわかっているのに、そうしたくない気持ちのほうが強く、おじいちゃんがいう楽なほうの提案に従ってしまいました。『またこの道をもどるのか』と思うよりも、『このまま下っていけば絶対着くんだ』と信じたい気持ちになっていました」