50人以上の容疑者の中で、最も怪しいと目された人物は…
ハンセンは当時ロサンゼルスで人気のあったナイトクラブのオーナーだが、悪い組織とも繋がりがあると言われていた。ブラック・ダリア事件を調査したピウ・イートウェルは、2017年出版の著書『ブラック・ダリア、レッド・ローズ:犯罪、腐敗、アメリカ最大の未解決事件の隠蔽』の中で、ホテル強盗を計画していたハンセンやハンセンと交流があったベルボーイのレスリー・ディロン、ディロンの知人ジェフ・コンノースの3人が、計画を知ったショートをディロンが滞在していたとされるアスター・モーテルで殺害したのではないかと推理している。
実際、同ホテルのオーナーは、1947年1月15日に、血と便で覆われていた部屋があったと話したという。また、宿泊客の中にも、ショートに似た黒髪の女性とハンセンに似た男性を目撃した者がいたという。もっとも、ハンセンたちは容疑をかけられたものの解放された。イートウェルは腐った警官が裏でハンセンと繋がっていたからではないかと見ている。
犯人が特定できない状況の下、著名人が事件に関与しているのではないかという憶測も飛びかった。ドナルド・ウルフは著書『ブラック・ダリア・ファイル: ギャング、重要人物、ロサンゼルスを釘付けにした殺人』の中で、ロサンゼルス・タイムズの発行人ノーマン・チャンドラーと悪名高きギャングとして知られていたバグジー・シーゲルが関与したのではないかとする理論を展開した。
ショートの友人は、俳優オーソン・ウェールズは暴力行為を犯す可能性がある二面性を持っており、映画「上海から来た女」の中で犯罪の手がかりを隠したと訴え、ウェールズ犯人説を唱えた。当時人気のあったフォーク歌手ウッディ・ガスリーもロサンゼルス警察に尋問された。ガスリーはメンタルヘルスの問題を抱え、女性たちに猥褻な手紙を送っていたからだ。
警察は50人以上の容疑者に尋問、いずれも起訴されなかったものの、その中には最も怪しいと目された人物がいる。映画監督ジョン・ヒューストンやアーティスト、マン・レイと交友関係があったという医師のジョージ・ホーデルだ。ホーデル犯人説は、なんと、ホーデルの息子でロサンゼルス市警の元刑事スティーブ・ホーデルが著書『ブラック・ダリアの復讐者:殺人の天才:真実の物語』(邦題『ブラック・ダリアの真実』)の中で示唆したことから大きな話題となった。