ホーデル犯人説に信憑性を加えた事実
スティーブが父親に疑いを持ったのは、1999年に他界した父親の私物の中から、ショートに酷似した女性の写真を見つけたためだ。事件捜査中のロサンゼルス市警には様々な手紙がたれ込まれていたが、その中にはスティーブの筆跡と驚くほど酷似しているものもあったという。
また、ホーデル宅ではコンクリート袋の領収書が見つかったが、そのコンクリート袋は遺体の近くから回収されたコンクリート袋とブランドもサイズも同じだった。コンクリート袋は、ショートの遺体を遺棄するのに使われたのではないかと考えられた。ショートの遺体は腰のあたりから半分に切断されていたが、ホーデルは半体切除術を教えていたとも言われている。
ホーデルはまた、事件の前には、近親相姦の容疑で逮捕されていた。彼には5人の女性との間に生まれた11人の子供がいたのだが、その1人が、11歳の時から性的虐待を受け、ホーデルが交流を持っていたアーティスト、マン・レイの前でヌードになってポーズを取らされたとして父親を告発したのだ。もっとも、彼はこの件では無罪となっている。
ショートの遺体の両手が肘が90度になるように曲げられた状態で頭の上に置かれるというポーズをとっていたこともホーデル犯人説に信憑性を加えた。このポーズは、マン・レイの作品『非売品』で描かれているポーズとよく似ていたからだ。
実際、ホーデルは、ロサンゼルス市警が焦点を当てて調査していた6人の容疑者のうちの一人でもあった。ホーデルの自宅には盗聴器が仕掛けられたが、録音の中で、ホーデルはこう話していたという。
「私が仮にブラック・ダリアを殺したとしよう。 彼らはそれを証明することができなかった」
未解決のまま、このまま月日を重ねるのだろうか
2018年にも、ホーデル犯人説が再燃した。サンディ・ニコラスという女性が、当時警察に情報を提供していた祖父の手紙を発見、その中には、「ショートはGHという男に殺された」と記されていたという。GHは、他でもなく、ジョージ・ホーデルの頭文字と考えられる。
しかし、事件から77年経った今、ホーデルを含め当時の容疑者や関係者のほとんどが他界している。FBIが述べているように、ブラック・ダリア殺害事件は未解決のまま、伝説となってしまう可能性が高い。
それでも、この事件は、風化することなく、永遠に、人々の注目を集め続けることになりそうだ。その証拠に、警察には今だに、自分がブラック・ダリアを殺したと告白する垂れ込みが寄せられており、告白者の中には、ブラック・ダリア殺害事件が起きた時には生まれていなかった者さえいるという。こうして、ブラック・ダリアはアメリカの人々の間で、忘れ去られることなく、生き続けていくのかもしれない。