「ここは漁村なんだから稲は干さないよ!」
奥野 日本の時代劇だと、当時の日本人の背丈に合わせた梁の高さでセットを組んだりしますが、今回は世界から見た日本の美も意識されているからだとは思いますが、梁や天井が結構高かったです。
敷居を跨ぐ時「あれ、頭上のストレスが少ないな」と思って、気がついたのですが。そのことで画面に映っている空間に広がりと奥行きが出て、日本らしさは失ってないのにスケール感が飛躍的にアップしてて…すごいなと思いました。
現場では終始、日本の時代考証のスタッフと向こうのスタッフの間で、「ここは漁村なんだから稲は干さないよ!」みたいなやりとりもあり、和洋折衷の感覚のすり合わせバトルが見られてめちゃくちゃ刺激的でした(笑)。
洞口 微妙に笑いを誘いつつ、真摯さがありましたよね。
「Wild」な大名の髪型は“ボサボサ”か?
奥野 詳細は知りませんが、今回、真田さんご本人が個人個人にお声がけをして日本の専門的なクルーを呼んだらしく、初めて海外のクルーとの共同作業で進んでいたので、意識のすり合わせが必須だったんだと思います。
海外クルーの皆様は本当に真摯に日本の文化を尊重しながら日本人キャスト、クルーに向き合ってくれてたんだなと感動しました。
例えば、佐伯は脚本上「Wild」というイメージがあって。当初海外のヘアメイクチームでは髪をボサボサにして野性味を前面に押し出すアイデアを持っていたんです。
でも、日本人の床山さんや僕の感覚だと、仮にも大名だし、傾(かぶ)くという感性だとそうはならないと、悩んでいて。
洞口 結局どうなったの?
奥野 真田さんが間に入ってくれて、結果「ポニーテールみたいに結ったらいいんじゃないか」という案に落ち着きました。非常に楽しいやり取りでしたが、各部署で担っている責任がはっきりと分担されているイメージがありました。
髭ひとつとっても、違う部署が決して触れないというか、部署ごとの責任感がとても強いなと。
洞口 勝手にやるなってね。
奥野 そう。プロフェッショナルの私たちがやるから!って、気迫を感じます。
洞口 でも看過できない場面もあったりするし。その辺りのバランス感覚が、真田さんは本当にお見事でしたよね。