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 たとえば、「Fallout」シリーズには「Vault-Boy」というマスコットキャラクターがいる。彼は親指を立てて遠くを見るような仕草をしているのだが、その理由は特に知られていなかった。だが、実写ドラマ版では、それがどのように生まれたのか、しかも実写ならではの手法で描かれている。

Vault-Boy。楽しげな表情だがかなり悲惨な目に遭う、まさに「Fallout」を象徴するキャラクターだ。画像はEpic Games Storeより

 ほかにも驚くべき要素がある。原作ゲームには放射能によって変化してしまった「グール」という人間がおり、場合によってはそれが凶暴な「フェラル・グール」になってしまうという設定がある。グールがいかにしてフェラル化するのか、はこれまでゲーム内で明かされてこなかったが、そうした秘密も実写ドラマではじめて明らかになる。

 つまり、原作ファンも知らない驚くべき話がどんどん出てくるのである。その驚きはシーズン1最終話で最高潮になるように仕掛けられており、しかもその“新たな秘密”は原作ファンをも納得させつつ驚嘆させ、かつ単なるドラマとして見ている人も目を見開くものに仕上がっている。

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人それぞれのロールプレイをいかに実写ドラマで表現するか

 もうひとつ特徴的なポイントがある。「Fallout」シリーズはRPGだが、日本のRPGとは少し異なり、役を演じる(ロールプレイングとしての)側面が強い。

 基本的に主人公はキャラメイクで作り出すもので、その出自などはプレイヤーの頭の中にある。そして、物語も決まりきっていないのが特徴だ。ゲームでは一応メインストーリーがあるものの、それを無視してもよいし、話の途中で出てくる選択肢も好きなものを選べる。荒廃した世界で聖人を目指してもいいし、世界に順応して倫理観を失ってもいいし、危険なクスリにハマっているヤバいやつになってもいいのである。

 しかし、こういうゲームを実写ドラマ化するとなると困るだろう。プレイヤーによって考える主人公像は異なるわけで、正解はない。そこで実写ドラマ版では、3人の主人公を用意している。

 ひとりはVault(地下シェルター)出身の「ルーシー」。

主人公のひとりである「ルーシー」(演じるのはエラ・パーネル)。画像は『フォールアウト』本予告動画 | プライムビデオ - YouTubeよりキャプチャー

 彼女は清潔な地下で過ごしていたので世間知らずであり、終末世界では珍しく倫理観を持っている。彼女は原作を知らない視聴者のような存在であり、前述の1/3にあたる部分といえる。

 もうひとりは、B.O.S.と呼ばれる軍隊に所属する「マキシマス」。彼は軍隊でいじめられており、地位もない。しかし、ひょんなことから嘘で道を切り開こうとする偽りの英雄となる。

 原作ゲームでは「スピーチスキル」が存在しており、これは口八丁で争いを諌めたり、うまく交渉できるというもの。マキシマスはゲームに慣れてきたプレイヤーの分身のような存在だ。

主人公のひとりである「ザ・グール」(演じるのはウォルトン・ゴギンズ)。画像は『フォールアウト』本予告動画 | プライムビデオ - YouTubeよりキャプチャー

 最後のひとりは、残虐非道の「ザ・グール」。彼は人を気軽に殺し、暴力で周囲を支配し、長い時間のなかでウェイストランドに適応した人物だ。極めて暴力的であり、原作ゲームにすっかり慣れたプレイヤーの暴力性を描いている。

 このように、ドラマに登場する3人の主人公が、さまざまなゲームプレイヤーの立場と相似するかのような描かれ方になっている。“ロールプレイング”ゲームという、人それぞれの解釈があるゲームを、映像作品の設定として巧みに落とし込んでいるのだ。