原作ゲーム以上にグロテスクな描写もあるが…
また、「Fallout」シリーズは滅んだ世界が舞台なので、悲惨な環境なものの、とにかく皮肉めいていてどこかカラッと明るい印象がある。これを実写ドラマ版でうまく描けているのも注目点だ。
実写ドラマ版は原作ゲーム以上にグロテスクな描写が多く、目を逸らしたくなるほど痛々しい場面もしばしばある。しかし、冗談みたいに血が出たり頭が吹き飛び、その一方で驚くほど簡単に怪我が治ることもあって、ノリとしては軽薄だ。これがあまりにもバカバカしくて笑えてしまう。
物語の舞台のウェイストランドではしょっちゅう人が死に、狂ったロボットがフレンドリーに暴力をふるい、放射能で巨大化したゴキブリが襲ってくる。あんまりにもあんまりすぎて、悲しみにくれる暇もなく、もはや笑うしかないのである。
こういった「Fallout」シリーズの真髄ともいえる雰囲気もしっかりと掴むことができるようになっている。
強烈な“アイロニー”
サウンドトラックも優れている。「Fallout」シリーズは1950年前後にアメリカで流行していた実在の曲が使われているのがひとつの特徴といえる。
The Ink Spotsの『I Don't Want To Set The World On Fire』は特に印象的だ。これは「世界に喝采されたいのではなく、ただ君の心に火をつけたいんだ」というような曲である(「set the world on fire」は大成功するというような意味)。
だが、「Fallout」の世界は核戦争で滅んでいる。大成功するどころか、核兵器でマジに「set the world on fire(世界に火をつける)」をしてしまったのだ。
このように、ほかの意図を持って制作されたであろう楽曲が、「Fallout」シリーズで流れるととんでもない皮肉になるのである。実写ドラマ版でもこれを素直に継承。効果的に使っている。
あるエピソードでは、地下シェルターVaultでマキシマスが裕福な生活を楽しむシーンがある。彼は地上生まれなので安心安全な生活はあまり経験がないし、キャビアやポップコーンといった嗜好品を楽しむのも初めてらしい。
このシーンで流れるのは、Jamie Cullumの『Give Me The Simple Life』である。これは競争や悲しむことのないシンプルな生活がよい、飾らない暮らしこそが理想だという曲である。
たしかに、Vaultには地上のような暴力も争いもない。レイダーと呼ばれる野蛮な人間が銃をぶっぱなしながらケーキを手で食い散らかすこともまずないだろう。そう、もはやこの世界では、そういうシンプルな生活すら特権となっているのである。
地上では弱いものがひたすら食い物にされ続けているのに、地下ではテレビを見ながらポップコーンを食べている人たちがいる。まったくもってひどい話だ。
しかし、その穏やかな生活を送っている人たちですら、実はただの特権階級ではないのである。
バスローブを着て滝の映像を浮かれ顔で鑑賞しているマキシマスを見ていると、その姿のマヌケさに、見ている側はつい可笑しくなってしまう。ただ格差を描くだけでは悲惨になるが、随所に皮肉が効かされているのだ。ゲーム版の大きな特徴ともいっていい要素がドラマ版でも見事に継承されている。