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 それにしても、分譲地がどこまでも続いていく。このエリアの企画・販売を行う積水ハウスの情報によると、コモアしおつの総区画数は1400を超え、開発面積は80万平方メートル以上。バチカン市国の1.8倍の広さ、といってもイメージしにくいが、ともかくミクロな独立国家を形成できそうな規模感である。

上りエレベーターを出ると目の前にスーパーが鎮座している

 いまでもゴーストタウンといった雰囲気はなく、住宅街のなかには自身の敷地内でパンや軽食を販売している区画もある。ニュータウン入り口すぐにあるスーパーにも人が入っており、魚売り場にはイシダイやウマヅラハギなど、山間部には似つかわしくない魚も並んでいた。

スーパーに並ぶ鮮魚。珍しい魚が並ぶ

 散策中、公園のベンチに腰掛け休憩していると、下校中の小学生から「こんにちは」と声をかけられる。見たところ1年生か2年生だろう、なんてできた子なのだろうか。くぐもった声で「こんにちは」と返し、自身の怪しい挙動が彼の善良な魂を墨のように汚しはしないかと懸念する。あとでお家の人に「変な人がいた」と報告されなければいいのだが。

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「どんなに混んでいても高速が早い」と笑う地元住民

 再びコモアブリッジを降りてくると、なにやら足元がフワつく感覚がある。小旅行を終えたような気分になっていた。スマートICへと帰りしな、せっかくなのでもう一度大野貯水池の桜を見ておくことにする。

大野貯水池の周遊路はさながら桜のトンネル

 桜並木の周遊路を歩いていると、3人組の淑女たちがスマホを手に持ったまま立ち止まっているのが見える。撮影をお願いされたので応じ、軽い世間話がてらスマートIC開設後の環境変化について聞いてみた。実感できるほどの交通量の変化はないようだが、やはり連休などは迂回路として20号が使われやすく、下道もかなりの混雑に見舞われることがあるという。「高速がどんなに混んでいても、そのまま乗っていた方が早いですよ」と笑う姿が印象的だった。

 観光・物流の中継地である談合坂サービスエリア周辺は、農林業をはじめとする中央道開設以前からの地元住民の生活が息づくとともに、東京都下や山梨県中心部のベッドタウンとしての側面も併せもつ。とはいえゆるやかに進む過疎化、少子高齢化の流れも否定しえず、スマートICの開通による周辺開発がどのように進み、生活環境がどのように変わっていくのか、談合坂はそのような節目を迎えているエリアなのかもしれない。