桐山は、居飛車も振り飛車も指しこなすオールラウンダーだった。順位戦では後手なら振り飛車、先手はひねり飛車を主軸に快進撃を続け、A級5期目にしてついに名人挑戦権を掴んだ。ちなみに7勝2敗で挑戦権獲得も豊島と同じだ。待ち受ける名人は中原誠。桐山と同い年ながら、名人8連覇中の絶対王者だ。
私はそのころ中学1年生で、アマ初段になりプロの将棋もいくらかわかるようになっていた。桐山が私の得意戦法である中飛車を採用していたこともあって、新聞観戦記や将棋雑誌で桐山将棋をむさぼるように見ていた。
豊島がオールラウンダーとなったワケ
その桐山が名人戦第2局でひねり飛車を採用したのだ。
豊島も同じ33歳、同じ名人戦第2局でひねり飛車とは、なんたる偶然だろうか。
豊島は奨励会時代、桐山の自宅で将棋を月に一度教わっていて、それは四段になるまで続いた。2018年、棋聖戦に挑戦したとき聞いたところでは、「平手で教わりました。師匠は居飛車でも振り飛車でも何でも指してきます。とても勉強になりました」とのこと。豊島がオールラウンダーとなったのは師匠の影響が大きいのだろう。ひねり飛車の公式戦採用はわずかだが、おそらく経験は豊富なのだ。
ちなみに「師匠とは酒を酌み交わしたりするの? 私はよく石田師匠と飲んで、両者つぶれて……」と聞くと、「いえ、師匠も私も酒は飲まないので紅茶とケーキで、ほとんどが将棋の話です。師匠が作った詰将棋を解いたりもしました」と言われたことがある。さすが桐山豊島師弟やなあと感心したことも記しておく。
第1局のお返しとばかりに次々とポイントをあげる藤井
後日、杉本にも話を聞いた。ちなみに杉本は私と同学年だ。
「懐かしいですね。私は中1の10月に奨励会に入りまして、奨励会を受験する前は、月イチで師匠の自宅で将棋を教わっていたんです。桐山先生がひねり飛車を得意にされていたことは覚えています。師匠が40歳で石田先生と桐山先生はまだ33歳ですか。先生方が、皆さん貫禄があるのでもっと年上かとおもっていました(笑)」