今回は映画『極道社長』を取り上げる。

 梅宮辰夫の演じる金融業者の主人公とチンピラ二人組(室田日出男・川谷拓三)が、さまざまな手立てで大金を儲けようと企むコメディだ。

1975年(81分)/東映/動画配信サービスにて配信中

 序盤の二人組は「不景気に強い」という理由で葬祭業・し尿処理業を次々と営むが、その度に主人公に経営権を奪われてしまう。口八丁の商才と法的知識で二人組を巧みに手玉に取る主人公を演じる梅宮のハッタリの利いた爽快さと、川谷・室田のギラギラしたバイタリティのコントラストが抜群。一九七〇年代の東映らしい下世話な喜劇を異様な熱気で毒々しく彩っていた。

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 やがて二人組は主人公の部下になり、三人でキャバレー経営に乗り出すことに。このキャバレーがとんでもない。

 主人公は「徹底した娯楽路線」を標榜、「惜しまずに見せる、触る、触られる」をモットーに過激路線を突き進む。中でも売りは「ジャングルバンプ」というサービスで、音楽に合わせて踊るホステスたちのスカートを客たちが覗き放題というもの。これが成功して店は大繁盛となった。

 本作で最も注目したいのは、主人公の名前である。彼は劇中、「三井住友」と名乗る。これは、油断すると「実在の銀行名をパロディにしている」と思ってしまうところだ。

 だが、同行が実際に誕生するのは本作の制作よりも約四半世紀後のこと。当時は「三井」と「住友」は、それぞれ別の銀行だった。それだけに、この両者の合併が決まり、銀行名が発表された時には「うわ、『極道社長』そのものだ!」と興奮したものだ。

 本作の主人公はあくまで「日本を代表する二大財閥の名前を繋げた」だけだ。そして、冒頭でその名前が記された名刺を主人公がホステスに渡した際、ホステスたちはそれを見て大爆笑する。それは、三井と住友が一つになるということは「ありえない」という前提だからこそ、成り立つジョークだった。だが、今ではそれが当然の日常になってしまったため、面白みがわからない場面となった。

 つまり三井住友銀行の誕生により、現実がパロディの世界を追い抜いてしまったのだ。それだけ日本経済は、制作当時からは考えつかない状況に陥った。バブル崩壊、景気低迷、金融危機と再編を経て、多くが様変わりしている。

 銀行を取り巻く昨今の状況は、さらに厳しさを増していると聞く。そうなると、本作の主人公たちが行なっていたような事業に財閥系の企業も本格的に乗り出す可能性がないとは言い切れないだろう。

 いずれ本作は、「未来を先取りした社会派作品」という評価を得るかもしれない――。