昨今の映画は洋の東西を問わず、ラストシーンのキレが悪い作品が多い気がする。
クライマックスが過ぎてしばらくしてもエピローグ的なシーンがダラダラと続くため、盛り上がった気持ちが冷め、最終的には「早く終われよ」と作品全体の印象も悪くなる。
その点、旧作は良い。クライマックスを過ぎたら早々に、印象的な画(え)とともにバシッと終わってくれることが多く、余韻に浸ることができた。
特に「意外な結末」系の映画は、驚かせた後は早く終幕してほしい。驚愕のまま放り出され、鑑賞後も盛り上がりが持続されるからだ。
今回取り上げる『マタンゴ』が、まさにそうだ。
SFホラー映画の傑作である本作は、ある病院の精神科の病室から始まる。そして患者の村井(久保明)の述懐を通して、物語が綴られる。
豪華なヨットで外洋に繰り出していた村井ら七人の若者たちは嵐に遭って難破し、周辺に陸地の見えない無人島に漂着する。
やがて彼らは、自分たちの前に漂着したと思われる難破船を見つける。国籍不明の核実験の調査船である船内には、死骸も含めて人影はない一方、謎の巨大キノコ「マタンゴ」の標本が貯蔵されていた。実験記録には「乗組員が帰ってこない」「キノコに触れるな」と記されており、なぜだか鏡はどこにも見当たらない。そして、島にはキノコの形状をした等身大の怪物が現われる。
本作を貫くのは、圧倒的な不穏さ。特に効果的だったのは、ディテールまで作り込まれた「ぬめり気」だ。あらゆる所に菌類が繁殖している難破船のセットや、巨大キノコの造形――全てが生理的な気持ち悪さを醸しており、この島の尋常でなさを伝える。
人間ドラマも秀逸だ。閉ざされた空間と迫りくる飢餓の中で各人は疑心暗鬼に陥り、エゴに走るようになる。徐々に露わになる、それぞれの本性と本音。失われる理性。その描写が実に生々しいため、彼らが「禁断のキノコ」に手を出すに至る心理に緊迫感と説得力をもたらしていた。
キノコを口にした者は生きてはいるが、「人間」ではなくなる。それが分かっていても、欲求を抑えられない。最後に残ったのは村井とその恋人・明子(八代美紀)のみ。だが明子も、ついに――。
ラスト、場面は病室に戻る。一人だけ助かった村井は、「僕もキノコを食い、キノコになり、二人あの島で暮らすべきでした」と後悔していた。そして、「驚愕の真実」を伝える画を映した後、物語は唐突に終わりを告げるのだ。
この容赦ない突き放し方のおかげで、初見時の衝撃が今も残り、本作は心の奥底で妖しく輝き続けている。