東映が銀座の本社を移転することになった。跡地は複合的な商業施設になるらしい。
取材や試写で何度もうかがったことがあるのだが、一九六〇年に建てられた本社ビルには、各部屋や試写室はもちろん、廊下や壁や天井や階段、全てが高度経済成長期からそのまま経年した風情がある。昨今の無機質な再開発ビルとは明らかに一線を画したアンティークな魅力あふれる、とても安らぐ空間だった。
ただ一方で、見るからに老朽化した諸々の施設には不安もあったし、銀座の超一等地をこのままにしておくのは、他人事ながらあまりに惜しい気もしていた。そのため、致し方ないことなのだろう。
そこで今回は、『海賊八幡船』を取り上げる。海賊と何の関係が――と思われるかもしれない。が、本作は六〇年に「本社建設記念作品」として製作された一本だったのだ。
当時の東映は盤石のスターシステムを擁した娯楽時代劇が大人気で、日本映画界の覇権を握る勢いがあった。創立から十年足らずで銀座に自社ビルを建設できたのは、まさにその繁栄の象徴である。
本作は、その記念にふさわしい時代劇になっている。
時は戦国時代。瀬戸内を拠点に外国と貿易する船団「八幡船」の活躍が描かれる、日本では珍しい海洋冒険映画だ。
物語は堺から始まる。主人公の鹿門(大川橋蔵)は、大商人の跡取りで遊び人として育っていた。だが、実は八幡船の旗頭の忘れ形見だと分かったことで、瀬戸内の村上水軍と組み、実父と義父の仇でもあるニセ八幡船との闘いに巻き込まれていく。
本作の魅力はなんといっても、玄界灘という外洋でのロケーションを存分に活かした大スペクタクルと、東映時代劇全盛期だからこその贅沢な造りの数々が織り成す、スケールの大きい映像にある。
海岸線を埋め尽くさんばかりの、八幡船を出迎える島の人々の凄まじい数。広大なスペースに小屋が林立する海賊集落のセット。旗船「めくら船」をはじめとする、精巧に作り込まれた巨大な八幡船。海上を進む船団。その船上もまた、無数の海賊で満載だ。
中でも圧巻なのは、海戦シーンだ。実物大の船同士が大砲を撃ち、ぶつかり合う。そして船上の大立ち回りからの大炎上。CGを使っても大変な海洋アクションが、全て実写のアナログ技術で表現できているのである。資金力においても、技術力においても、当時の東映がいかに隆盛を極めていたのかが、カットの一つ一つから伝わってくる。
この壮大な映像に浸っていると、あの古びたビルが銀座の空に燦然と建っていた時代の幻影が目に浮かぶようだ。