一九五〇年代から六〇年代初頭にかけての時代劇映画の黄金時代において、「水戸黄門」映画は「準オールスター作品」という位置づけにあった。黄門をベテランの重鎮スターが演じ、そのお供である助さん&格さんを若手スターが演じる。これにゲスト的な立場でもう一人くらい加われば、四人のスターが顔を揃えることに。豪華な布陣だ。
東映で月形龍之介が黄門を演じた際は、東千代之介、大川橋蔵といった若手スターたちが入れ替わり助&格を演じていたし、大映で長谷川一夫が黄門を演じた際は助さんを市川雷蔵、格さんを勝新太郎が演じている。
そうした中で、今回取り上げる『水戸黄門 助さん格さん大暴れ』は、少し異色な作品となっている。
黄門役は変わらず月形で、助さんを松方弘樹、格さんを北大路欣也が演じている。こう書くと、本作もスター勢ぞろい的な作品と思われるかもしれないが、実はそうではない。この段階では北大路も松方もまだ「スター」といえる状況ではなかったのだ。
北大路は市川右太衛門の息子、松方は近衛十四郎の息子。「時代劇スターの二世」同士のコンビとして、次世代のスター候補に売り出されている真っ最中だったのだ。
それだけに、本作は両者の瑞々しいフレッシュさを前面に出した内容になっている。
冒頭から、浜辺にて褌一丁で相撲をとる両名の姿に始まり、船遊びする重役のドラ息子たちを海に引きずり落としたりと、「大暴れ」のタイトルに偽りなし。若い肉体を存分に見せつけ、躍動感たっぷりに映し出されていく。
本作は二人が黄門と出会い、その下で働くようになるまでが描かれる。いわば、従来の作品の前日譚のような位置づけの作品だ。そのため、夜空の下で将来の成功を誓いあったり、登用試験の試験会場で大乱闘をしたり、草原で仰向けに寝転んで憤懣を叫んだり――、そんなまだ折り目正しいお供衆になる前の助さん&格さんの「ヤンチャな若者」ぶりが、まだ時代劇の芝居の型を身に付けていない北大路&松方の荒々しさに見事にマッチ。青春映画としての、活き活きとした空気が作品全編から放たれることに。
正体を知らず、その心意気に触れて黄門に惚れ込む助さんと格さん。そんな二人の心の叫びを耳にして好感を持つ黄門。ただの主従関係だけではなく、心からの信頼関係による結びつきによって、このチームが成り立っているのだと分かり、実に微笑ましい。
『水戸黄門』というと、ワンパターンの代名詞だが、実はこういう切り口もあったりする。かくも時代劇は幅広い。