実はスケートの映画を撮りたいとは『僕はイエス様が嫌い』の撮影直後から考えていました。ただ、その後、ミュージックビデオを監督し始めて、曲を聴いていると自ずと歌詞から映像をイメージするようになり、それが職業病みたいになってしまったので、ある時から歌詞のある曲をプライベートでは聴かなくなったんです。

左からさくら(中西希亜良)、タクヤ(越山敬達)、荒川(池松壮亮)©2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

 久々に聴くようになったのはコロナ禍ですかね。色んな仕事が止まった時、インストゥルメンタル曲だけでなく、歌詞のある曲も自然にまた聴くようになって、その時にスピーカーから聞こえてきたのが「ぼくのお日さま」でした。

 久しぶりに聴いてみて凄くいい曲だなと思いました。当時の鬱屈した気持ちを不思議と和らげてくれたと同時に、その歌詞と自分の幼い頃のスケート経験が紐づいて、「ぼくのお日さま」の“ぼく”を主人公にして映画を作ろうと思ったんです。

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 ちょうどその頃、池松壮亮さんが出演するエルメスのブランデッドフィルム(企業、自治体が制作するショートムービー)を撮っていて、そこでまた、池松さんがこの映画にでてくるとどうなるんだろうとか考え始めているうちに、色んなことが結び付きはじめました。

本作におけるもう一人の監督・池松壮亮

――池松さんとはNHKの夜ドラ『ユーミンストーリーズ』でもコラボされています。池松さんは監督にとってどんな存在ですか。

奥山監督 率直に言って、池松さんは、この映画における言わばもう一人の監督だと思っています。

 今回、タクヤとさくら(タクヤとアイスダンスのペアを組む少女)を演じた子供たち2人には台本を渡してないんです。口伝えでこういうシーンだとだけ伝えて。この演出手法を使う時に大事なのは、お芝居する相手だと思っています。

©深野未季/文藝春秋

 台本を読んでいる人たちが台本にないことを言われた時にどれだけ柔軟に動けるかだと思って。そういう意味では、僕以外にもう一人監督的なポジションに立てる人がいないと、なかなかそういう演出方法は成立しません。

 池松さんは物凄く監督的な視点を持っている方だから、もう一人の監督として、2人の子供たちを演出しながらコーチ役を演じてもらいました。

撮影が子供たちの成長を邪魔する期間であってはならない

――タクヤ役の越山くん、さくら役の中西さんに対しては何か心がけたことはありますか。

奥山監督 台本を渡さず口伝えすることで、セリフを言わされている感じをなくしたいと思いました。