なぜかというと、現場が疲弊するからです。やる前からわかっていたことですが、テレビで放映されると、お客さまがどっと押し寄せる。店は大混乱です。負担が急増した結果、スタッフが辞めていってしまっては元も子もありません。ゴールデンタイムのテレビに出たおかげで、知名度が全国区になったのはありがたいことでしたが、やはり本来、むやみに使ってはいけない手だと思うのです。
しかし、このときはカンフル剤として期間限定でやるぞ、と決めてやりました。3回ほどテレビに出て、借金を返して、それでおしまいです。サイゼリヤはふだんテレビCMを一切やっていないので、テレビに出るとものすごく効くのですが、それ以降、原則的にテレビ出演は封印しています。
「理念以外は全部変えます」
私が少しでも早く借金を返したいと考えたのには理由があります。社長就任の記者会見で、「理念以外は全部変えます」と大見得を切っていたからです。新たに会長に就任した正垣さんはそれを聞いて横で笑っていましたが、私は本気でした。それが、創業家出身ではない雇われ二代目社長の務めだと思っていたのです。
もちろん、サイゼリヤのいいところはそのまま残すつもりです。しかし、急成長で足元がグラグラになっていました。いままでは見様見真似の技能の継承でなんとか成り立ってきたかもしれませんが、これだけ大所帯になると、もっとしっかりとした土台が必要です。サイゼリヤが「奇跡の会社」であり続けるためのインフラ整備。これが私に課された課題だと思っていました。
サイゼリヤの人たちはみな店で働いた経験があり、そこに誇りをもっています。経営陣も同じです。ところが、100店を見る立場にあったとはいえ、プロパーではない私は、店舗でオペレーションをしたことはありません。そういう人間が社長になることは、みんな不安に思うはずです。そういう不安を解消し、心を落ち着かせるためにも、自分たちはここを目指すんだという目標を先に示さないとダメだろうと考えました。
私が引き継いだ時点の店舗数はおよそ800店。国内1000店というのは昔からあった目標であり、まもなく達成されるというタイミングでした。では、次に何を目指すのか。会社をひとつにまとめるためにも、新たな目標が必要です。