客数で中国の人口を目指す
チェーンストア理論では、ビジョンというのは一見、不可能に思えるような数字を出しなさい、とされています。簡単には達成できない目標だからこそ、時間はかかっても取り組む価値が出てきて、それがみんなのロマンになっていく。そう聞いていたので、とにかく桁違いの数字を持ってこようといろいろ考えた結果、最初に出てきたのが利益1500億円という目標でした。
1500億円の利益を出すためには、売上が1兆円は必要です。外食産業で売上1兆円を達成した企業はなかったので、それを目標に掲げたのです。
しかし、正垣会長がこれを嫌がっているのはわかっていました。「カネか、おまえは」というわけです。たしかに利益が目標では直感的にわかりにくいし、社員の心に響かない。それで、店で働いている人たちにもイメージしやすい数字にしようということで、最終的に客数を目標にすることにしました。
当時の年間客数は1億1000万人くらいで、まもなく日本の総人口(当時)を超えるというタイミングでした。次のステップとしてふさわしいのは何かと考えて、世界一の人口を誇る中国の人口にしようと。それで2025年に客数14億人を目指すという長期計画を立てたのです。
(コロナ禍による外食自粛などもあって、私が社長を退任した時点でその目標に届かせることはできませんでしたが……)
ともあれ、長期計画が指し示すのは到達点です。飛行機でいえば目的地。目的地を途中で変更してはいけません。飛行機が別のところに到着したら大パニックです。高くて遠い目標を掲げるのは、簡単には変えられないからです。
一方、中期計画というのは5年単位で回していきます。中期計画は一度つくっておしまいではなく、毎年軌道修正をはかります。これも飛行機のフライトと同じです。目的地(長期目標)は変えなくても、毎回の飛行ルートは、天候や風向き、紛争リスクなどさまざまな要素が絡み合って、つねに軌道修正しています。5年ごとの中期計画が硬直化したままだと、事業環境の変化に対応できないため、ここは毎年見直します。
さらに、目の前の課題を解決していくための具体的なプランが年次計画です。この三本立てをうまく使い分けながら経営していくわけです。