「メタバース(ネット上の仮想空間)を使った催しは非常に有効です。鳥取県でもメタバースの婚活イベントを行っており、カップルの成立率は結構高めに出ました。人前で会って、いきなりダメと言われるのではなく、まずはメタバースでマッチングし、それから実際に会って『イメージ通りだな』とか、『この人は良さそうだな』とかと考えてもらうのに便利なのです」
こうした施策を始めたのは、若者に少しでも多くの出会いの場を設けたかったからだ。
鳥取県が行なったメタバースをつかった婚活イベント
県が「県政参画電子アンケート会員」などに「少子化対策」のアンケートを行ったところ、独身者のうち「結婚したい」と答えた人が81.4%だった。結婚していない理由について尋ねると、「適当な相手にめぐり会わないから」が55.9%と最も多く、「自分に経済力がないから」が29.4%、「自分の自由になる時間がなくなるから」が26.5%と続いた。つまり、「出会い」があれば「結婚したい」という人が最も多かったのである。このため1対1のマッチングを行う「とっとり出会いサポートセンター」などの施策に加え、2024年3月にメタバースの婚活イベントを催した。
「ただし、メタバースにはVR(バーチャル・リアリティー)ゴーグルを装着するような種類もあり、すごくリアルで没入感にひたれます。これだと、アイトラッキングという目の動きが調べられ、『この人はどういったところに興味を持っているか』という非常にプライベートな個人情報が収集されることがあります。インターネットの閲覧履歴から利用者が好きそうな広告を出すのと同じ原理なので、ある意味では有用性のあるデータかもしれません。でも、収集を控えるべきではないかという議論が、特に行政の場合は出てきます」
平井知事が組織した「先端技術と民主主義のあり方を考える研究会」は、10項目の「自治体デジタル倫理原則」をまとめた。アイトラッキングの問題は「人権保障の原則」と「ガバナンスの原則」に関わるとされており、「センシティブな情報取得も可能であり、データポリシーを適切に整備しておくことが重要」と記されている。あらかじめ、どういった情報を収集・利用するかの明示が求められるのだ。
「非常にデリケートな問題は今後、数多く発生していくと思います。試行錯誤を重ねながら先端技術を使っていく。私達はその入口に立ち始めているのでしょう」。平井知事はそうした時代認識を示す。
「これからの社会はなかなか見えません。シンギュラリティ(進化した人工知能が人間を上回る瞬間)に入り始めているのかもしれません。『ルパン三世』の劇場版アニメは、マモーという脳味噌の化け物と人間が戦う物語でしたが、かつてのSFのようなことが現実に起き始めています」