インターネット上で大量に集めたデータから文章、画像、動画、音楽などを生成する人工知能「生成AI」。その使い方によっては民主主義が脅かされかねない側面があると、鳥取県の平井伸治知事が問題提起をしてから1年が過ぎた。
平井知事は、先端技術と民主主義のあり方について検討する学識者らの研究会を組織。このほど「人間主導のデジタル社会へ」というタイトルの報告書を受け取った。10項目の「自治体デジタル倫理原則」が盛り込まれており、デジタル技術を使うには、まず人間としての倫理が求められるという内容だ。
「大変な勢いで進む技術革新。特に生成AIは素晴らしいパフォーマンスを示すようになり、機械が私達を上回る時代が目の前にやってきているのかもしれません。ただ、そのなかでも私達が大切にしたい地域社会や民主主義。この世の中の人々を守る仕組み。そうしたことで機械に頼りすぎてはいけないと思います。しかし、ともすればこの世界は便利な方に流れてしまいがちです」
平井知事が研究会を設置した問題意識を語る。
2024年4月26日、東京都内の鳥取県関連施設。「先端技術と民主主義のあり方を考える研究会」が開かれていた。
研究会は2023年9月に鳥取県が設置し、オンラインで7回の議論を重ねて報告書をまとめた。この日は最後の会合となり、実際に委員が集まる「リアル会議」に9人の委員のうち8人が集まった。
冒頭、挨拶に立った平井知事が続ける。
「鳥取は上から目線で見られがちで、『田舎者はAIも使えないのか』というふうに言われることもあります。だったら、全国でもトップクラスの研究を行っている皆さんの議論で、これからの民主主義や地方自治、地域社会と技術の関わりを議論したいと考えました」
「AIより、えぇ愛」を作っていきたい?
「地方には絆社会が残っています。ちょうど鳥取では田んぼの作業が真っ盛りです。そのようなリアル社会の愛情や絆はAIに勝るべき存在だと思います。新しいデジタル社会や未来をひらくうえで、この研究会から『AIより、えぇ愛(いい愛)』」を作っていきたいという思いです。人間が主導するデジタル社会を、民主主義や地方自治のうえでも確立していきたい」
だが、この発言には委員のうちから異論めいた「冗談」が表明された。
鳥海不二夫・東京大学大学院工学系研究科教授が「『AIより、えぇ愛』という言い方ですが、『AIより』というよりは『AIと』ではないかと思います。両立していただけるよう『AIに対する愛』もあっていいんじゃないかなという感想です」と述べ、出席者の笑いを誘った。
普通なら笑って終わりにするのだろうが、平井知事が発言を引き取る。
「決してAIを否定するものではありません。実は『AIと、えぇ愛』とか、『AI・えぇ愛』とか、『AIから、えぇ愛』という表現も検討しました。その時に、『少し問題提起をした方がいいのではないか。いろんなところでバズるかもしれない』という話になりまして……」と内幕を明かす。