平井知事が「何にでもどんどん使えばいい」という風潮に一石を投じたのはこのためだった。
また、地域社会の最先端で起きている問題については、ネットからの収集データを元にした回答ではなかなか解決策にならない。このため、平井知事は「ChatGPTよりも、ちゃんとジーミーチー(地道)に、地べたを泥臭く歩き、人の声を聞いてまとめていくことが大切」と得意のダジャレを交えて訴えた。
要するに、民主主義や地方自治を危うくしかねない技術なので一度立ち止まり、「よく考えたうえで使っていこう」という呼びかけだった。が、「使用を禁止した」と短絡的に誤解する人も多かった。
「田舎者はAIも使えないのか」という声が寄せられる鳥取県だが、実は…
その「よく考えたうえで」という役割を担ったのが「先端技術と民主主義のあり方を考える研究会」だった。
「田舎者はAIも使えないのか」という声が寄せられる鳥取県だが、実はデジタル施策の先進県だ。障害者アートを集めたバリアフリー美術館の開設や、出席簿や健康診断表といった学校の公簿・帳票の電子化など、全国から注目される施策が多い。
中心になっているのは「デジタル局」で、新しい技術については常に調査研究を行っている。ChatGPTについては公開直後から、下田耕作局長が先頭に立って活用効果や課題、危険性を調べてきた。使わないためではなく、安全で適切に使うためにはどうしたらいいかの検討だった。
このため、研究会の報告書がまとまるまではガイドライン(暫定版)を定め、情報漏洩を防ぐための専用システムを自主開発したうえで、安全性が高い範囲に限って庁内利用してきた。
2023年8月に定めた暫定版ガイドラインには、地方自治に対する熱いメッセージが込められている。生成AIに関するガイドラインは多くの自治体にあるが、これほど強い思いが記された文章はない。
まず、「視点」として下記の3点を挙げた。
・地域のことは地域で考え、地域で決めるのが民主主義や地方自治の要諦であること。
・地域が抱える真の課題やその課題の解決案は、生成AIからは出てこないこと。
・現場主義を貫き、県民・企業・団体・市町村等の声を丁寧に聞かなければ、優れた施策は策定できないこと。
そのうえで、「AIが生成した内容を県の施策方針の策定や意思決定に使用しない」とし、「特に、答弁資料の作成、予算編成、重要な政策決定に係るものに関しては使用を禁止する」と決めた。
要するに、自分達の未来は、機械任せにするのではなく、自分達で決めるという宣言である。
そして、試行の範囲や方法は次のように定めた。