鳥取県がついに生成AIの本格利用を始めた。多くの課題が指摘されてきた技術だけに、どのように活用するかを約1年間にわたり検討してきたのだ。そして2024年6月1日、庁内向けのガイドラインを定めた。

 生成AIなどの先端技術については、平井伸治・鳥取県知事が「使い方によっては、民主主義や地方自治の危機を招く」と問題提起して話題になった。では、県としてどう使うのか。EU(欧州連合)の「AI法」と同じく4段階のリスクレベルを設定し、それぞれの段階によって対応策を変える。このようなやり方の導入は国内の自治体として初めてだ。また、業務に関係あるAIについては職員一人一人が常にリスクなどについて考えていくような仕組みにもなっており、極めて斬新な内容になった。

EUのAI法を参考にした鳥取県のガイドライン

「我々が考えてきた内容に似ているなぁ」

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 平井知事と下田耕作・鳥取県デジタル局長が打ち合わせをした時、そんな話になった。

下田耕作・鳥取県デジタル局長と打ち合わせをする平井伸治・鳥取県知事(左)

 EUのAI法である。2024年5月21日、EUが世界に先駆けて制定したAIに対する包括的な規制法は、健全なAIの活用や人権を守る概念が基本になっている。鳥取県がAIなどのデジタル技術に関して検討してきた内容と重なる部分が多かった。

 この問題では、平井知事の投げかけが全国に波紋を呼んできた。

 生成AIは、インターネットで大量に集めたデータから文章、画像、動画、音楽などを生成する。

 米国の新興企業OpenAI社が2022年11月、新しい生成AIサービス・ChatGPTを公開すると、大きな話題になった。まるで人間と対話するかのようにして回答し、世界を驚かせたのだ。

「頼りになる」「便利に使おう」。そうした気運が自治体の現場でも高まり、政策立案や議会答弁に使えるという声まで出た。

 このような風潮に「ちょっと待って」と疑問を呈したのが平井知事だった。「使い方を考えないと民主主義や地方自治の危機を招きかねない」と警鐘を鳴らしたのだ。

平井知事が採用した“10の原則”

 その「考える」という部分を担ったのは、工学や法学、行政法、人権、地域づくりなどの専門家だ。平井知事は9人の委員による「先端技術と民主主義のあり方を考える研究会」を組織して、議論を展開した。テーマは生成AIのみならず、デジタル社会が引き起こす問題にまで広がり、2024年4月26日に報告書がまとまった。「最先端技術を使うにはまず人間としての倫理が求められる」という内容で、10項目の「自治体デジタル倫理原則」が盛り込まれた。

 10原則は次の通りだ。

(1)住民自治の原則(2)人権保障の原則(3)インクルーシブの原則(4)パートナーシップの原則(5)課題解決志向の原則(6)人間主導の原則(7)リテラシーの原則(8)透明性の原則(9)ガバナンスの原則(10)機敏性の原則。

10項目の自治体デジタル倫理原則

 平井知事はこの報告を受け、試行的な使い方にとどめてきた生成AIの利用を本格的に始めると決めた。試行段階では「暫定版」のガイドラインをルールにしてきたが、10項目の倫理原則を反映させて完成版を策定したのだ。これを2024年6月1日に公表した。