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 ただ、「間違うと受験者の運命に関わることもある」(平井知事)。AIに任せきりにしてしまうのではなく、注意を払いながら使わなければならない。このため、「間違う可能性があると想定し、対策も整えて使うというレベルの高い管理をする必要がある」(同)とした。

 高リスクのAIを使うなら、事前に「想定→対策」を準備しておくのを前提にしたのだ。

 この点は、危険性を認識したうえで使っていくもう一つの業務・レベル2と大きく違う。

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 レベル2はリスクレベルが「限定的」で比較的低い「要配慮業務」だ。

 新ガイドラインでは「AIの出力傾向の把握等により、責任ある運用に配慮しつつ活用」としており、「AIを直接利用者が取り扱う業務や、AIの出力結果をそのまま利用する必要がある業務については、AIの出力傾向の把握や定期的な動作記録の確認、分析を通じて、出力結果に責任をもてるように配慮する」と説明を加えた。

AIが適していない“100%正しい答えが求められる仕事”

 どんな例があるのか。平井知事が挙げたのは、「自動応答型のAIチャットボット(自動会話プログラム)」と「AI婚活マッチングシステム」だ。

 自動応答型のAIチャットボットを、まだ鳥取県は導入していない。自動応答型ではないタイプを活用している。この方式だと回答はAIではなく職員が責任を持って用意する。AIの役割は、県民からインターネットを通じた質問が寄せられた時に、どの回答に結びつけるかの判断だけだ。

鳥取県が運用している自動車税の問い合わせチャットボット。質問を入力したら、あらかじめ職員が作成した回答からどの内容を表示するか、AIが選ぶ

 自動応答型では、香川県三豊市で支障が起きた前例がある。

 三豊市のゴミ出しは18分別と種類が多い。さらに、平成大合併で一緒になった旧7町ごとに収集日が違うことから、市への問い合わせが多かった。そこでChatGPTを使い、ネットを介して自動応答すれば、省力化につながると考えた。これだと24時間答えられ、仕事で滞在している外国人にも母国語で返答できる。

 2023年、AIにゴミ出しルールを学ばせたうえで実証実験を始めると、正答率は62.5%にしかならなかった。自治会名や住所で尋ねられると収集日が答えられず、複数の材質でできた廃棄物の分別も説明できなかった。

スペイン語で書かれた香川県三豊市のゴミ出しルール

 誤答はその都度修正してAIに学ばせたが、職員がいちいち正しい答えをホームページに掲載しなければならず、大変な手間になった。

 これらの問題に対処できるよう全面的にAIに学び直させ、一問一答形式だったのを、正答に近づけやすい対話形式にするなどして、2回目の実証実験を行った。それでも正答率は94.1%と、目標とした99%には届かなかった。

 このため本格導入は断念せざるを得なかった。

 三豊市の担当者は当時、「質問によって回答が変わったり、学習させたのに情報が引き出せなかったりして、原因不明の誤答が解消できず、そうした壁がどうしても越えられませんでした」と話していた。

 生成AIの回答にはブレが出ることが知られている。だから、100%正しい回答が求められるような行政ジャンルには適していない。

 鳥取県の下田局長は「正答率が100%でなくても許され、『参考程度でいい』という情報発信で活用することはあり得ます。そうした技術特性なのだと利用者に伝えたうえで、どんな回答をしているかのチェックをしながら使っていくのです」と語る。