生成AIなどの先端技術に依存しすぎたら、民主主義や地方自治が危うくなる。

 鳥取県の平井伸治知事がそんな問題提起をしてから1年が経過した。知事はこの間、学識者らによる「先端技術と民主主義のあり方を考える研究会」を組織し、10項目の「自治体デジタル倫理原則」をうたった報告書を受け取った(#1)。「AIに支配される社会にしてはならない。あくまで人間主導で、技術の前に倫理があるべきだ」という主旨の報告書になっている。

 これを受けて、平井知事はどのような現状認識をしているのか。そして、どのように施策にいかしていこうとしているのか。まずは、民主主義という観点から話を聞いた。

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 その前提として、これまでの平井知事の主張を整理しておきたい。

平井伸治・鳥取県知事 ©葉上太郎

 平井知事が生成AIについて危機感を表明したのは2023年4月の定例記者会見だった。前年の2022年11月、米国の新興企業OpenAI社が新しいAIサービス「ChatGPT」を公表し、大きな話題になっていた。生成AIはインターネット上の情報から学習した大量のデータをもとに文章、画像、動画などを生成する。特にChatGPTはまるで人間が回答するかのような文章を生成したことから、社会に衝撃を与えた。

 地方自治体でも政策立案や議会答弁など生成AIに任せられる部分が多いのではないかという意見が出た。

 だが、平井知事は次のように会見で発言した。

「我々は今、民主主義や地方自治の危機に差しかかっていると思います」

 鳥取県はもとより、多くの地域が人口減少や疲弊に悩まされている。世界に目を転じれば、紛争や戦争のニュースを聞かない日はない。

人口減少で疲弊する地域社会(鳥取県内)©葉上太郎

平井知事が危機感を抱いている理由

 そうした内外の情勢を踏まえて、「ChatGPTはすばらしい発明であって、そこを評価したうえでなのですけれども、いくら端末を叩いたところで、出てくるのは世間で言われている話や情報の混合体で、せいぜい現在か過去の問題です。これから1年先、あるいは10年、20年先のことで本当にその地域にフィットした答えが出てくるわけではありません。自治体の意思はAIではなく、地域の話し合いの中で決定されるべきものです。県庁の職員には、議会答弁の資料作成だとか、予算編成だとか、重要な政策決定での使用を禁止したい」と述べた。これが波紋を呼んだ。

 全く使わないなどと宣言したわけではない。「肝心なところは自分達で考えて決めよう。それが民主主義であり地方自治だ」という主旨だったのに、誤解された。

 ネット社会の恐ろしさである。「使用を禁止」という言葉が切り取られて拡散されたのだ。「デジタル後進県の『田舎知事』が先端技術を理解できないから反対している」というレッテルまで張られた。