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「生成AIの言いなりになったら、ヒトは道具以下になってしまう」“AIを理解できない田舎者”と批判された平井伸治・鳥取県知事が伝えたい“人間主導のデジタル社会”

民主主義とデジタル社会、鳥取県の問題提起#3

2024/05/31
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 事実は正反対で、鳥取県は全国でもトップを走るデジタル先進自治体だ。これを副知事時代から推進したのが平井知事だった。2001年に電子県庁推進プロジェクトを設立し、翌年には電子県庁推進課を発足させた。現在のデジタル局では常に最新技術の情報収集をしており、ChatGPTについても公開当初から活用効果や課題、危険性を調査研究していた。平井知事の発言はそうした結果も踏まえたうえでの問題提起だった。

 その後の鳥取県にはどのような反応が寄せられたのか。改めて今、平井知事に聞いた。

下田耕作・デジタル局長と話す平井伸治知事

「AIやデジタル、先進技術については『とにかく使ってみたい』『批判は許さない』というような雰囲気があります。特にインターネットの世界ではそうです。このため、当初はいろいろと意見をもらいました。反発というか、どちらかと言うと『田舎者が何もわからないくせに』という反応でした。

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 しかし、問題提起した内容の重要性を、学者やメディアの中でも理解してくれる人が出てきました。こういう技術を追求している学者の皆さんも含めて問題意識を共有してくれたのです。そこで、私達としても専門家の議論で先端技術と民主主義のあり方をリーディング的に研究してみようと動き出しました(2024年4月26日、「先端技術と民主主義のあり方を考える研究会」が報告書を提出)。

 あの時、一石を投じたことが、その後のEUやアメリカ、さらにはG7広島サミットでの議論に重なり合うような形になりました。小さな鳥取県(2024年5月1日時点の推計人口は全国最少の53万3023人)から問題提起したことに、地球全体が応え始めてくれているように感じます。少し波風は立ちましたが、民主主義や地方自治の道筋を皆で考えるのに役立てばなと、今は期待するようになっています」

生成AIは「フランケンシュタインみたいなもの」

 平井知事は、生成AIなどの最先端技術について、「フランケンシュタインみたいなもの」と語る。

平井伸治・鳥取県知事 ©葉上太郎

『フランケンシュタイン』は英国の作家、メアリー・シェリー(1797~1851年)が著した小説のタイトルだ。生命の謎を解き明かして操ろうと考えた青年が「理想の人間」の設計図を手に入れて人造人間を造る。ところが、人造人間は怪物と化し、殺人を犯していくというストーリーだ。

「造ってみたら、決して人間の思い通りに動くわけではなく、かえって人間の脅威になりかねない。AIをはじめとしたデジタル社会の急激な進展には、多くの人に問題意識を持っていただけたと思います。一番言いたかったのは誰が主役かということでした。先端技術を使いこなすのが人間のポジションなのに、道具の言いなりになってしまったら、人間は道具未満の存在になってしまう。そうなったら、もう文明の発展などありません。だからこそ、『人間主導のデジタル社会』を志向していきたいと考えました。有識者の皆さんの議論を仰ぎ『自治体デジタル倫理原則』を定めたのは、そうしたことからでした」

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