鳥取県の平井伸治知事は、学識者らで組織した「先端技術と民主主義のあり方を考える研究会」から報告書を受け取った。10項目の「自治体デジタル倫理原則」が盛り込まれており、生成AIなどデジタル技術が発展しても、あくまで「人間主導」であるべきだという内容である。そのための県政は、どうあるべきか。#3に続き、平井知事に聞いた。
地方自治体では議会答弁に生成AIを使うところが出始めている。公文書や議会答弁を生成AIに学ばせ、答弁書の原案を作らせるのだ。
だが、平井県政ではあり得ないという。
平井県政はなぜ答弁書を生成AIに学ばせ、原案を作らせないのか?
議会とは、選挙で選ばれた住民代表が議論を交わし、その自治体の意思を決める機関だ。同じく住民代表の首長が率いる執行機関のチェックも行う。
このため、平井知事は自分の言葉で答弁している。
「言葉は語る人が自分で考えるべきです。政治や行政に対する信任に関わるからです。知事は言葉に責任を持たなければいけないし、議員は議論して政策に賛成するか反対するか決めなければならない。言葉のキャッチボールが民主主義の基本なのです。それをAIに任せるとなると、政治家は要らない、行政機関も要らないということにもなります。
そうしたことを機械に委ね始めた時、私達が皆で支え会っている地域社会や地方自治、民主主義は音を立てて自己崩壊するでしょう」と、平井知事は危機感をあらわにする。
生成AIに委ねてしまう地方自治のことを、平井知事は「コインを入れたら出てくる自動販売機」と比喩する。
「その方がましになる。余計なことはしなくていいと思われている行政があるのは耳が痛い話ですが、では社会が進歩していくかというと、そこで止まってしまいます」と話す。
議会でのやり取りだけではない。政策についても同じことが言える。例えば、認知症の高齢者対策だ。
「ちゃんと地道に」…平井知事が語る“生成AIから出てこない政策”
「生成AIに尋ねると、全国で行われている施策から抽出し、最大公約数を答える可能性があります。しかし、私達は高齢者施設や認知症当事者の団体で個別の話を聞きながら施策を進めています」
そうしたうちの一つが、行方不明になった時の対策だ。
「都道府県レベルではまだ珍しいのですが、お年寄りの居場所がGPS(衛星利用測位システム)で分かる仕組みを取り入れています。それから、お年寄りがいなくなった時には24時間、48時間という段階で、行政と警察で情報を共有します。行政と警察は情報を共有している部分もありますが、していない部分もあります。そこで協定を結んだのです」
こうした問題では、1件のケースが施策を進める場合もある。