生成AIの使い方によっては民主主義や地方自治の危機を招きかねないと警鐘を鳴らした鳥取県の平井伸治知事。学識者らによる「先端技術と民主主義のあり方を考える研究会」でまとめた報告書を受け取った。

なぜこの報告書が“画期的”だったのか

 この研究会が画期的だったのは、生成AIが及ぼす民主主義への影響という本来なら国レベルで議論しなければならない内容を地方自治という視点で話し合っただけでなく、デジタル社会が抱えるリスクにまで踏み込んだところだ。SNSによるフェイク情報の発信、選挙への影響などについても、どう向き合うべきか検討した。報告書は「人間主導のデジタル社会へ」と題されており、主客転倒して技術に使われてしまってはならないという強いメッセージが込められた。

 先端技術に脅かされかねない民主主義や地方自治。これらについて議論するといっても、全国に前例がない。どのように研究会を進めるか。あまりに壮大なテーマに、事務局を務めた下田耕作・県デジタル局長は戸惑った。

ADVERTISEMENT

鳥取県の下田耕作・デジタル局長 ©葉上太郎

 様々に検討した結果、研究会での議論は自治体業務の基本的な流れに即して展開することにした。県庁ではまず、情報を集めて住民の声を聴く。それから、施策を立案して決める。そして、施策を実施して情報を発信する。この三つの過程のそれぞれについて、デジタル技術が関係する課題を話し合ったのだ。

 例えば、第1段階の「情報を収集する。住民の意見を聴く」というプロセスに関しては、パブリックコメント(施策案に対する意見公募)で、生成AIに作らせた意見が大量に送りつけられたアメリカの事例を紹介した委員もいた。「人間から届いたものなのか、生成AIが作ったものか見分けがつかない。鵜呑みにすると、立案形成にゆがみが出る恐れがある。生成AIによるものかどうかを見破る技術は開発途上」などと指摘した。

 デジタル技術を使った「潜在的な住民の意見の収集」についても議論が交わされた。

議論された内容とは……?

 Xの投稿内容を分析したり、LINEでターゲットを絞って意見を聴いたりする手法が、今後の行政では多用されるかもしれない。だが、様々な人からまんべんなく聴ける手段ではない。

「Xの利用者は若者が多く、特に10~20代だ。この年代の意見を聴くのは重要だが、地方自治体に対する要望が直接的に投稿されるケースはそれほどないのではないか」「Xからの意見集約にはデータの偏りがあり、そもそも分析に値する投稿があるかどうかという問題もあるので、慎重に議論する必要がある」などの意見があった。

「きもちメーター」の画面など(「先端技術と民主主義のあり方を考える研究会」の資料より)

 第2段階の「施策を立案し、決定する」というプロセスでは 現在行われているデジタル施策に関して議論が交わされた。そのうちの一つ、学校現場で試験導入されている「きもちメーター」に関しては極めて興味深いやりとりがなされた。