フェイク情報で選挙が歪められる恐れについては、米大統領選での騒動が記憶に新しい。
研究会では「カナダでは自動音声による電話で、実際には存在しない場所に投票所があるという一斉連絡がなされ、選挙妨害を目論んだ偽情報が出回った」などという実例が示され、「今後、ネット利用がますます盛んになると、フェイク情報が問題になっていくのではないか」と不安視する委員もいた。
こうした議論を受けて、鳥取県は2024年度、県庁のデジタル部局や広報部門の職員を中心に構成する「フェイク情報対応実証チーム」を発足させる。
どのようなことをするのか。デジタルツールでSNSやネット上で拡散ワードを収集分析。偽・誤情報の広がりが懸念される事例を洗い出して、県が保有する情報と照合する。必要に応じて聞き取りや現地確認も行うという。社会への影響が大きいと判断した場合は、県のホームページや公式SNSなどで流すほか、報道機関への資料提供も行う。
行政としては全国で初めての取り組みだ。ただし、憲法が定める表現の自由や検閲禁止との兼ね合いもあり、「モデルケースを重ねていきたい」と平井伸治知事は記者会見で述べた。
フェイク情報が人命を奪いかねないのは災害時だ。
偽の救助要請などが社会問題化した能登半島地震
2024年1月1日に発生した能登半島地震では偽の救助要請などが社会問題化した。こうした情報をもとに警察官などが駆けつけると、何もなかったというようなことがあり、本当に救助が必要な人の命が失われかねなかった。
能登半島地震の偽情報は海外からの発信が多く、収益目的だったとされている。Xは有料コースに申し込むと、インプレッション(閲覧)回数によって広告収益が還元される仕組みが導入されているのだ。
他にも、近年は大災害のたびにフェイク情報が問題化してきた。
2022年9月の台風15号災害では、「ドローンで撮影された静岡県の水害」と称する偽画像が当時のTwitterに投稿、拡散された。生成AIで偽造した画像だった。
2016年4月の熊本地震では、熊本市動植物園からライオンが脱走したという偽情報が、市街地を歩くライオンの合成画像と共に当時のTwitterに投稿された。偽情報であることは同園職員の確認ですぐに分かったものの、被災で翌日までSNSなどによる「正しい情報」の発信ができなかった。
「『ライオンが外にいたら危ない』と被災した家に戻り、その家が余震で倒壊したら人命に関わるところでした」と、当時の職員が怒りに拳を震わせて話すのを取材したことがある。投稿した神奈川県の会社員は逮捕されたが、実質的に殺人と同レベルの行為だと社会全体が認識しておかなければならないだろう。
撮影 葉上太郎
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