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 人類がかつて経験したことのないような事態。それは人間自身が生み出したものだ。果たして、乗り越えられるのか。平井知事はある事例をもとにして、人間の叡知(えいち)が機械を使いこなすと説く。

 それはモータリゼーション、車社会だ。

「発明された当初の車は自由に走り回っていました。でも、次第に交通ルールが必要になってきます。人が横断していたら、手前で止まらなければならない。スピードには気をつけよう。飲酒してきちんとコントロールできない時は運転してはならない……。横断歩道という白線が引かれたり、車道と歩道が区別されたりしただけでなく、前の車とぶつからないよう制御装置が取り付けられるまでになりました。こうしたことは、だんだんと後から付加されてきたのです」

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 現代社会にとって、車は不可欠な存在だ。ただし、道路交通法があってこそ社会は機能している。AIはこれと同じようになっていくのか。

道路交通法があってこそ人間主導の車社会が維持できる(東京都渋谷区)©葉上太郎

平井知事が強い危機意識を持っている“選挙”

 平井知事は「生成AIに関する議論が始まる前に私達が恐れていたことが実際に起こり始めています。例えば生成AIでフェイク動画が作られて、詐欺事件が起きています。場合によってはフェイク情報によって戦争を起こしたりするような使い方も可能になっています。

 人類は非常に便利な道具を手にしつつあるのですが、それを使うための倫理を考えるべきです。道路交通法のように、場合によっては倫理ではなく、法規制になるかもしれません。人権に関わること、差別につながること、民主主義を脅かすことについては、やはり法律で規制しなければならない局面もあります。一定のルールを作ったうえで便利さを享受していくのが本来の姿だと思います」と話す。

 フェイクと民主主義という点で、平井知事が強い危機感を持っているのは選挙だ。

「フェイク画像や情報が選挙の時に影響する可能性があります。今も世界中がアメリカ大統領選を心配しています(2016年の米大統領選では『ローマ法王がトランプ支持を表明』『クリントン陣営関係者が人身売買に関与』などといった虚偽情報がSNSで流された)。こうした虚偽情報は民主主義を歪めることもあります。現代社会がここまで成長させてきた大切な価値観や制度の基盤は、技術革新があったとしても守っていかなければなりません。このため、フェイク情報をある程度キャッチできないかという実証実験を始めたところです」

 鳥取県は2024年度、「フェイク情報対応実証チーム」で偽・誤情報への対処を進める。具体的には#2に記載した通りだ。

 平井知事は「新型コロナウイルス感染症が大流行した時、いわれなき差別が広がったことがあります。そういった情報をネット上で検索しながら、『誹謗中傷はやめよう』というメッセージを出しました。事実と全く異なる情報については、チームで対処することになると思います」と話す。