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「インターネット上におけるフィルターバブル(検索やクリックの履歴分析・学習で一定の傾向を持った情報が優先的に表示され、利用者の考え方や価値観が泡の中に孤立したようになってしまう現象)やエコーチェンバー(SNSで興味関心が似たユーザー同士がフォローし合うと、閉じた部屋で音が反響するように自分と似た意見ばかりが返ってくる現象)、アテンションエコノミー(質はともかく、関心や注目を集めた情報の経済的価値が高いという概念)などの構造を高齢者等に周知するとともに、偽・誤情報の存在を予防接種的に事前に認識しておくなどの防衛策を講じておく必要がある」(リテラシーの原則)

「ベンダー(IT関連の製品やサービスを提供する業者)任せにして先端技術を導入、運用するのではなく、当該技術に採り入れられているロジックや出力結果の傾向について、地方自治体が十分把握し、議会や住民に対して説明できるようにすることが重要」(透明性の原則)

 といった具合だ。

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 こうしてまとめられた報告書にはどのような意義があるのか。

 各委員からは「これまで民主主義という観点で捉えられてこなかった問題」(狩野英司・一般社団法人行政情報システム研究所主席研究員)、「成りすまし詐欺など、技術がある種モンスター化していて、皆がしっかり対応していかないと制御不能になる。鳥取県が他に先駆けて報告書をまとめた」(小西敦・静岡県立大学経営情報学部教授)、「原則を作ると結果として使わない方向にいってしまいがちだが、非常にバランスのよい原則ができた」(鳥海不二夫・東京大学大学院工学系研究科教授)などと高く評価された。

研究会委員の狩野英司・一般社団法人行政情報システム研究所主席研究員 ©葉上太郎

 報告書を受けた県は、暫定版になっていた生成AIのガイドラインを見直す考えだ。

 作業を担当する下田局長は「データの簡易分析や、アイデア出しのためのヒント、定型文の下書きなどにも使用範囲を広げる見込みですが、意思決定は人間が行うという点や、職員が見て、聞いて、考えて施策につなげるという土台は変わりません。『何も分からないから教えてください。その通りにします』というのではなく、『できるけど託す』『きちんと判断ができる人が使う』『人間がコントロールできる範囲内で利用する』というのがデジタルによる効率化の基本。リアルとデジタルのハイブリッド(組み合わせ、使い分け)が大切なのです」と話す。

 報告書の「はじめに」には、「いかに技術が進化したとしても、地方自治体は、技術に過度に依存し、職員の心理面を含めAIに支配されるような組織や社会を構築してはならず、地方自治体が信頼を失うような未来へ導いてはならない」と書かれている。その精神は自治体だけでなく、社会のあらゆる場面に通じるのだろう。

撮影 葉上太郎

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