平井知事がバズらせた「鳥取にはスタバはないが、日本一のスナバがある」
バズるとは、英語のbuzz(ハチなどがブンブン音を立てるという意味)から生まれた造語だ。SNSなどネット上で拡散し、広く話題になる現象をいう。
鳥取県では平井知事のダジャレがバズった例がある。「鳥取にはスタバ(スターバックスコーヒー)はないが、日本一のスナバ(鳥取砂丘)がある」という発言が全国に広まり、鳥取砂丘のPRに大いに役立った。
「少しとがった表現で、あえて『AIより』とした方がいろんな議論が巻き起こるかと考えました。すいません、炎上商法です」と冗談めかして語ると、会場はまた笑いに包まれた。
ジョークの応酬のように見えるが、実は研究会での議論の深淵をのぞき込むような内容でもあった。
取りまとめ役を務めた座長の山本龍彦・慶應義塾大学大学院法務研究科教授が語る。
「AIという技術には功罪があります。無批判に使ってしまうと、アルゴリズム(コンピュータの作業手順)というブラックボックスが非常に複雑に動くので、人間から見ると分からなくなります。さらにそのアルゴリズムを開発するのは民間の事業者なので、重要な意思決定が住民から遠ざかってしまうのです。メリットとデメリットのバランスをどういう形で取っていくか。研究会の議論では一番重要なポイントでした。委員の中では『これから生成AIを全く使わないということはできないだろう。でも無批判に使っていくことには問題がある』という認識は共有していました。ただ、より積極的に使うべきか、慎重に使っていくべきかという考え方には微妙な温度差がありました」
これこそ民主主義に関する論点の一つだった。
どういうことなのか。これまでの経緯を振り返っておきたい。
「政策の立案はChatGPTに任せられる」のだろうか?
生成AIが社会で広く注目されたのは2022年11月、米国の新興企業OpenAI社が公開したChatGPTがきっかけだ。まるで人間と対話しているかのように回答するサービスには世界が驚いた。
議会での質問や答弁をはじめ、政策の立案はChatGPTに任せられるのではないかという意見まで出た。
「これではSFで描かれた機械の支配する世界が現実になってしまう」。大きな議論がわき起こった。
そもそも、ChatGPTの回答にはかなりの割合で嘘が含まれる。あまりに流暢な文章が生成されるので、利用者は気づきにくい。生成の元となる収集データは著作権に配慮しない。このため、著作権を侵害されたデザイナーらから悲鳴が噴出した。個人情報などを直に入力して質問すると、質問が学習されて機密情報が漏れるリスクがある。生成AIにはコンピュータのプログラミングも行わせることができ、ウイルスや詐欺メールの作成に悪用される恐れも指摘された。生成AIによる成りすましや詐欺事件は実際に社会問題化し、フェイク画像などによる偽情報やデマ、戦争や選挙でのプロパガンダなど、もはや見過ごせない問題になっている。