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お笑い賞レースへの思い

 この時期、世間ではM-1グランプリをはじめとする賞レースへの関心が高まっていた。一方で、大勢の芸人を集めてトークを回す番組が増え、「ひな壇芸人」という言葉が生まれた頃でもある。そのなかで有吉は、賞レースに背を向け、《本当は芸人がいっぱい出てる番組とか出たくないんですよね。ガッツリお笑いの世界で戦ってやろうみたいな気はもう一切ないですから。それより脇道で喰っていくしかねーなっていう。アイドルみたいなお笑いの能力が低い奴らの中で“有吉っておもしろいよな”って言われてるほうがいいです》とうそぶいた(『EX大衆』2010年7月号)。

 ちょうどこの年、やはりブレイクし始めていたAKB48を相手に深夜番組『有吉AKB共和国』(TBS系)がスタートし、有吉にとっては初の冠番組となる。その後もレギュラー番組は増え続け、2013年10月に『有吉ゼミ』(日本テレビ系)が特番からレギュラー化するにあたっては、同番組が「初のゴールデンタイムでの冠番組」だったことが意外と言われるほどになっていた。

2013年にスタートした『有吉ゼミ』は初のゴールデンタイムでの冠番組だった(日本テレビ公式サイトより)

 2015年には『有吉ゼミ』と同じスタッフによる『有吉の壁』(同上)が深夜の特番として始まり、チョコレートプラネットの「TT兄弟」など人気キャラクターが続々と生まれた。2020年からはゴールデンタイムでレギュラー化され、現在にいたっている。

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 芸人たちがお題に合わせて芸を披露し、それを有吉が○×で判定する『有吉の壁』は、彼に言わせると「芸人再生工場」ということになる。実際、「とにかく明るい安村」や「もう中学生」はこの番組で再び脚光を浴びた。そこには、有吉が芸人たちのため伸び伸びとやれる雰囲気をつくっているところも大きいのだろう。彼にとってこの番組は、自分に芸人を続けていくモチベーションを与えてくれた竜兵会や『内P』への恩返しという意味合いもあるのかもしれない。

「素のお前なんかいらない」

 紅白の司会という大役も見事果たし、いまや有吉にこなせない番組はないといえる。もっとも、再ブレイクして数年が経った頃より《自分がなんで呼ばれたかを考えて、あんまり番組の趣旨に沿わないことはやらないようにしたりとか、そのへんの意識は高いとは思います》と語っていた彼からすれば、それも当然のことなのだろう(前掲、『Quick Japan』Vol.94)。

 その意識はほかの芸人とくらべても図抜けていた。そこには、子供の頃から20歳になるまで、父親や中学時代の野球部の監督、そして高卒後に入門したオール巨人と、ずっと絶対的な人の下にいたことが大きく影響しているようだ。これについて本人は、《すごく抑圧されていて、彼らからしたら、僕の役割があるだけで、『素のお前なんかいらないんだ』ってずっと言われてきたような気がしていて。今も、その場その場で求められているお前をちょうだい、と言われている気がするんです。だから、素の自分を出すのは悪いことだし、自分も苦手だし、そもそも、そんなの、必要ないって思っちゃうんですよ》と説明している(『パピルス』2009年10月号)。